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□[一周年]はじめての見守り
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「なぁ…本当止めないか?」
「駄目だ!ちゃんと見ておかないと心配だろ!?」
「じゃあミラーだけで良いじゃん…」


石畳の道が続く首都郊外ののどかな街。ミラーマンとタクシーが「尾行」しているのは何故かミラーマンの妹、アナ。
その二人の奇怪な行動の発端はその日の朝に遡る…








「出掛けたい?」
『はい』

そうアナが言い出したのは朝食を食べ終わった後だった。
言い出したと言っても、アナは生来より声が出せないため普段は筆談となる。だが真実の鏡であり、尚且つ血の繋がった家族であるミラーマンは、アナが言おうとしている事や心情が読めた。所謂テレパシーと言うやつだ。


確か予報では一日中快晴と言っていたので、どこかに行くには丁度良い。最近自分も忙しく、アナと買い物に行けない日が続いていた事だし。

「わかった。何を買うんだ?何でも買ってあげるぞ!」
『いえ…お金は自分のを使うので、お兄様は出さなくて大丈夫です』
「え?」

意外な願いに目を丸くするが、アナもそろそろ16だ。金の使い道を学ぶ方が良いだろうと考え直す。

「じゃあ着替えてくるからちょっと待っ…」
『あっ、あの…今日は一人で行きたいのでお兄様は付いて来ないで下さい!』
「!!?」
『じゃあ行ってきます!』
「ちょっ、アナ!」

思いがけない言葉に呆然としている間に、アナは出掛けていってしまった。
そこへ偶然通りがかったのは地獄のタクシー。

「…」
「ミラーマン?何か固まってるけど、どうし…」
「…おいタクシー、追うぞ」
「は!?ちょ、追うって何を…って痛い痛い!!行くから髪引っ張らないで!」




…というわけで冒頭に戻る。

それから彼是1〜2時間ほど、アナの後ろをつけている。アナに今のところ目立った様子も無いが、どこか目指す場所があるようで他の店には目もくれずに歩いていく。


「どこに向かってるんだ…?」
「なぁミラーってさ、アナちゃんの心の中読めるんだろ?だったらそれやればいいじゃないか」
「勝手に覗いたりしたらアナが悲しむだろ!とは言え…やっぱり心配だしさっきから読み取ろうとしてるんだが、最近アナのやつ能力のコントロールが上手くなったからな。買い物という漠然としたイメージしか読み取れない。流石は俺の妹!」
「はいはい…」


このようなミラーマンのシスk…じゃなくて重度な妹想いは今に始まったことではない。
事実上は従兄妹同士だがそれぞれ一人っ子という事もあって、どちらも兄妹同然のように接している。
それからどう拗らせたか。ミラーマンはアナを溺愛し、行く先行く先を心配して何処へ行くのも一緒という感じ。そのおかげでアナは絵に描いたような純粋無垢に育ったものの、妹離れができないミラーマンが出来上がってしまったのだ。


「あのさぁ…こう言うのもなんだけど、もうアナちゃんも高校生だろ?一人で行動してもいいんじゃないか?」
「何言ってんだ!可愛いアナが一人で歩いてて何処の馬の骨とも知らない男に捕まりでもしたらどうする!?例えばナリとかナリとかナリとかに!」
「ほぼナリ君じゃん!?」
「あいつはどっかのGのように現れるから油断なら無い」
「虫扱いぇ…」


と、そうこうしている内にアナは一軒の雑貨屋に入っていった。
最近新しく開店した店で、カントリー調の品々が並べられている。あまりファンシーさが無いためか、落ち着いた雰囲気の店内には女性だけではなく、ちらほらと男性の姿も見える。

その中でアナは食器を真剣に探しているようだった。

「やっぱり普通に買い物してるように見えるけど…」
「…あ、見ろ!ティーカップを二つ買ってるぞ。まさか誰か知らない男に渡すんじゃあ…」
「ないない。そんな隙無いと思うけど…」
「あ?なんか言ったか」
「たいしたことじゃないから!」




マグカップを買い終えたアナが次に向かったのは紅茶専門店。ここは世界各国の紅茶が揃う、普段からミラーも愛用するお得意の店で、マスターとも顔馴染みだ。
だが茶葉は二日前に買ったところで、家に余りはまだまだある。

「どうして茶葉なんか…キャサリン達にでもプレゼントするのか?」
「あー、最近女子同士仲いいもんな。お茶会で出すようのかもしれないぞ。カップだって持っていくんじゃないのか?」
「一人で二個も?」
「うーん…」


二人で考えているうちにまたも移動するアナ。しかし次はバスに乗ろうとしている。
見失ってはいけないと、急いでタクシーの車で追いかけようとしたその時…

「ちょっとお兄さんたち良いかな?」

肩を叩かれ振り返ると、そこに居たのは警察官。そしてハッとあたりを見渡すと、街行く人達が遠巻きにこちらを見ていた。

「通行人の方から通報がありまして、怪しい二人組の男性が女性を付回してるという…」
「い、いや俺たちは怪しい者じゃ…!」
「言い訳は署で聞きますんで同行お願いしますね」
「だーかーらー、あいつは俺の妹で…ってあああアナが居ねぇ!見失った!」


それから警察署に連れて行かれた二人は、色々あって誤解は解いたものの、こってりと説教された上に警察の人々からも冷ややかな目で見られつつ、帰宅する事になった。
(因みにタクシーは恥ずかしさで死ぬかと思った)







「はー、散々な目に遭った…」
「もう出発してから4時間も経ってるな。アナ、無事に帰ってると良いんだが…」
「それより通報された事心配しろよ!?危うくムショ行きだぞ!?」


そんなミラーに疲れながらもただいまー、と家に入ると奥からアナちゃんが出迎えてきてくれた。
今はタクシーも居るため筆談用の手帳も持っている。

『おかえりなさいお兄様、タクシーさん』
「ああ、ただいま。アナが無事何よりだ!」
『大丈夫ですよ。それよりお兄様たちも今日は外出に?』
「あ、ああ、まぁ…」

まさかアナの後をつけていましたとは言えず、曖昧に濁して答える。

『丁度良かった!ミロ兄様に渡したいものがあるんです』
「え?」
『ふふっ、ついて来て下さい』



そう言われ向かったのはいつも団欒を楽しむリビング。暖炉の火は既に赤々と灯っており、部屋内を暖めていた。
そしてその部屋の中心、ソファと共に置かれたローテーブルには一式の紅茶とお茶菓子。その紅茶が注がれていたのは、紛れもなく今日アナが買っていたティーカップだった。

「これは…」

『その…先週キャサリンさんのお手伝いで看護をした時、初めてお給料を貰ったんですが、もう十分に服も髪飾りもあったので使い道に困っていたんです。そしたらキャサリンさんがプレゼントを買ったら良いんじゃないか…って。だからいつもお世話になっているお兄様に、是非受け取って貰いたいと思ったんです』

「アナ…!」
『気に入って頂けると良いんですが…』
「…ありがとう、とても嬉しいよ。でも出来る事ならアナも一緒にお茶した方が幸せだな」
『…!!実はそのカップとお揃いでもう一つ買ってあるんです。だから…その…もし宜しければ…』
「ああ。それならもう一つ茶菓子用の皿を用意しなければな」
『はい!』


こうして、ミラーマンの勘違いによる一騒動は幕を下ろした…のだが、

「良かったな、ミラー」
「なぁタクシー…」
「ん?」
「アナが天使すぎて目の前がぼやける…!」
「…」

ミラーマンのシスコンは治る気がしなかった。
 

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