その他

□鏡に映える
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さらさらとした紺碧の髪に櫛を通せば、何の抵抗もなく落ちていく。癖のない直毛は所有者の性格を現しているように見えた。

梳いた端から向こうのパブリックフォンが様々な髪飾りをつけては、コレでないと外して、くしゃくしゃになった髪を幾度梳いただろうか。
漸くピンクと青のコントラストに似合う、シンプルな銀の、然し乍ら凝った装飾のそれを選び出す。耳の後ろに留めれば、光を反射してフラー自身の輝いて見えた。

「でっきたー!超綺麗だぜ坊ちゃん!オレってばやっぱ天才っ」
「素材が良いからだろうが。だが…お前にして良いのを選んだじゃないか。美しいぞ、フラー」
「オレを玩具にするな!ミロワールまで!」
「そんなこと言うなって、似合ってるからさ。タクシーもぜってぇ褒めてくれるって」
「そ、そんなにか?」

褒めれば照れながらも鏡に映して確認する様は、酷く幼く見えて思わず口角が上がる。
タクシーに見せてくると鏡に消える背中を見送り、自分も片付け始めると、向こうのパブリックフォンが声を掛けてきた。

「なぁ、あんたとちゃんと喋ったの久しぶりじゃね?出会った時以来か」
「ああ、そうだったな。共通の友人しか接点がないとそれも致し方ないが」

まず向こうのパブリックフォンも同様に、嘘つきな彼との話は遠慮したい。まさかフラーを飾ることに関して意見が合うとは今まで思わなかったが。


「王子から聞いてるぜ。すっげー男前だって。魔法も教えて貰って毎日忙しそうだし?」

「あいつずーっと引きこもって…っていうか地下居たからさぁ。あんたみたいな奴に出会えて良かったぜ」
「きっかけはパブリックフォンだろ」
「ああ、輝男ちゃん?いやでもここまで楽しそうな坊ちゃんはあんたのおかげだろ。もしあいつになんかあったら、これからよろしく頼むぜ?」
「…最善は尽くすが今は出来かねるな」
「あ?お前同じ真実の鏡だし、王子と仲良しなんじゃねぇの?」

そうまじまじと見つめてくる赤から目を逸らし、少し考えてから言葉を紡いだ。

「…信頼するほどの友情はある。だがクロックマスターであっても過ごした時間は増やせない。昔何があったとかは無理に聞かないしな、一番フラーのことを知って共にいたのはお前やそちらのタクシーだ。声を掛けるべきはお前たちだろ」

悔しいとは思うが時間はどうにもならない。だからこそ今からが重要だと、もう開き直ってしまっている。

「…あんた『ニンゲン』くせぇな…」

「何か言ったか?」
「いんや、なーんにも?っていうか坊ちゃんそれだけ愛されてて羨ましい!オレもお友達としていざってとき助けてくんねぇ?」
「はっ、貴様らパブリックフォンと誰が友人になるか。知人でお釣りが出るくらいだ」
「うわっ、キビシー!!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ声に耐えかねて、早々に鏡の中に帰る。


帰った部屋に飾られていた鏡の薔薇。キラキラと華奢に光を放つそれはフラーから捧げられたもので。

信頼する、とはよく言えたものだ。吐いた言の葉に偽りはないが、全部が全部とも言っていない、なんと狡いんだろう。
とうに自覚した弱さはそう簡単に変えられるものでは無くて。それを認め補ってくれた伴侶が居なければ、なんら昔と変わっていない。

鏡の花びらに映る己は、いつかあいつらと笑えるだろうか。安心して眠ることが出来るだろうか。

…やっぱり俺は怖くて、その未来を覗けないでいる
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