Another Mirror

□Twilight of adults.
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『キャビー大丈夫かな』
「心配しなくて良いわよぉ。あの人すっごく強いんだからぁ」

車の窓に張り付くように、何度も何度もキャビーが行った方向を見るアナ。その顔には不安が浮かんでいる。
アナは知っていた。自分を攫ったお婆さんの背景に何があるということも、それがどれだけ恐ろしい物かも。だからいくら大丈夫だと言われても、心にある闇が拭えなかった。


時間にすれば30分も経っていなかったが、何時間と待っていたかのように感じられ、不安で押し潰されそうになったとその時、プルルと電話の着信音が車内に鳴り響いた。
キャサリンがポケットから携帯を取り出し、少しの間話をし始めるのを無事を祈りながら見つめる。数分後会話を切ると、キャサリンはにっこりと笑ってこちらを振り返った。

「キャビーは無事よ」
『ほんと!?』
「ええ。でも服がドロドロになっちゃって車汚すから先に帰っててだって。バスで帰りましょうか…ってアナちゃん何処行くの!?」

キャビーが無事だと訊いて、ジッとしていられう、キャサリンの制止の声も振り切って外に飛び出すと、記憶にある隠れ家へ走り出す。どうか怪我してないで、と願いながら。






ああ、汚れてしまった。これはアナに見せられないな。

辺り一面血の海の狭い部屋の中で立つキャビーの周りには肉塊と化した人間だったモノ。素手で殴ったり蹴ったりしたものだから裾や手袋まで血に塗れている。
ただ一人ずつ殺していったお陰で、この陰謀も彼らの上に立つ奴等も全て聞き出せた。後は連絡さえすれば末端が片付ける。

「もしもしキャサリンさんですか?終わりました。…ええ、怪我はないですよ。ただ服が汚れてしまったので先に帰ってて下さい。…はい、では」

電話をかけ終えてボロ小屋を出ると、昼が短いこの季節はもう日が傾き、薄暗くなっていた。外には先程の男の子と他の子供が、血塗れの自分を見てぎょっと目を剥き、一部の子は悲鳴を上げる。
「全部返り血ですよ」と言ってみたが、安心できるはずもないだろう。
携帯でオーナーに電話して黒子を何人か派遣してもらう。ここにいるのが全員だという事を確認すると、その全てを見渡した。

「これから君たちの身上は私たちの組織が決めます。ここからはもう自由ですが、さっき起きた事や私の事は誰にも言ってはいけませんよ。例え警察であっても」

それだけ言って黒子が到着したのを確認すると、元来た道を引き返す。
真っ白いシャツには赤黒い染みが出来ており、洗濯では落ちそうもないし、暗いとは言え帰り道に目立ってしまう。どこかで新しいの買わないと…


ざりっ


「え…アナ…!?」

足音がして前を見れば、キャサリンと待たせておいたアナが居るではないか。
全速力で走ったようで、荒く息が切れている。そしてあっ、と思った時にはもうアナの紅い目がこちらを捕らえていた。

「アナ、これは…」

アナを見れば、こちらを見たまま固まっている。もう言い訳はできない。
アナと真正面から向き直ると、そのルビーのような瞳を目を合わせた。


「…アナ、これがオレだよ。綺麗でも、誠実でもないただのマフィアだ」


深紅の目を見つめながらありのままの事を、隠し事は一つもせずに語る。
この話が終わったら君とお別れかもしれない。遠くからだけど約束はきっと守るから。だから、と忘れないようにその色を目に映した。


「黙っていてごめん、いずれ説明するはずだったんだ」

「…オレと居ればきっと数え切れないほど怖い思いをするかもしれない。それでも君は俺と一緒に来るかい?」

そう問えば、震えながらもアナは少しずつ手帳に文字を書いていく。
そこには____


『私は、私を救ってくれたキャビーを信じるよ』


書き終えたアナは、キャビーに近づいたかと思うと、いきなり血に塗れた手を取る。そして薄暗い中でも光り輝く真っ赤な目はオレの姿をはっきりと映し、怯えも恐怖もない強い目をしていた。
 
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