MAIN(S)

□熱
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・この暑さは



(ミラー目線)

どんな夏の猛暑だろうが冬の極寒だろうが、地下にある部屋にその温度は届かない。常温を保ち、金庫などに隠してある宝物を美しいままにする。

今日地上では有り得ないくらいの猛暑だとタクシーがぼやいていた。そう言いながらクソ暑いはずの長袖を着て。
そこまで思い出して、今ベッドにいる俺の隣に居ない奴を想う。深夜でふと目が覚めた時、アイツがいないだけで心細くなる。

地上で生活する彼の体温は一体どうなっているのだろう。鏡である俺のそれは一般よりも低い。だから体温の高いタクシーと抱き合うと、とても心地良いのだ。

触れたい、触れられたい

サイドに置いてある鏡を見た。タクシーの部屋内を映し出すそれからは、壁際の鏡に背を向けて座るタクシーが見える。案の定起きていたようだ。しかしちらりと覗いた横顔は険しく苛立っているようだった。


音を立てず鏡を通って部屋に。煙草をふかす彼の背後から手を伸ばし、首筋に触れる。

一瞬、ビクリとタクシーの体が震えるが、すぐに片手が重ねられる。高い体温を孕む手、それを振り払わずもう片方を首筋に沿って動かす

「なにをそんなに苛立っているんだ、タクシー?」
「んー、暑いから」

穏やかに首を撫でていると、タクシーが体を反転させて俺を正面から抱き締めた。タクシーの温かさがじんわりと広がっていく


もうちょっとこのまま、そう思っていたら熱と共に眠気も復活してくる。


体温を分け合う抱擁は、朝起きるまで続いていた。

 
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