novel

□そばにいるから
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「…聖川……?」

暗闇の向こうから聞こえた神宮寺の声に、体がビクリと震えた。

そうだ…。

ここは俺の部屋ではなく早乙女学園で…。

全寮制のため、寮で生活をしていて…。

寮は、1人部屋ではなく、同室者が存在して…。

俺の同室者は、他でもない、あいつ…。

「っ…。」

このような場面、見られたら何と言われるかっ…。

「何?泣いてるのかい?」

「違っ…。」

カチッという音と共に明るく照らされる部屋。

「ウソ。泣いてるじゃないか。怖い夢でもみたのかい?」

ベッドからおりて、こちらへと歩いてくる神宮寺。

来ないでくれ。と、そう言いたいのに、嗚咽が邪魔をして言葉にならない。

「全く…。どうしちゃったんだよ。」

俺の髪に指を差し入れて、くしゃりと撫でられる。

「っ…、ふぇ…。」

神宮寺の表情は昔のお兄ちゃんと重なって。

思わず縋りたくなってしまった。

「真斗?言えないかな?」

…こんな時だけ、名前で呼ぶのは狡い。

「っ…。」

「うん?」

言葉を発しようと口を開くと、神宮寺が耳をこちらへ傾ける。

「ふ…とんっ…、濡らし、た…っ。」

それだけ言うのが限界だった。

「え…?布団?……それって…。」

「ふ…うぇぇっ…。」

「あぁっ、大丈夫だよ、真斗!」

抱きしめてくれた神宮寺の腕の中、嗚咽をもらして泣くことしか出来なかった。
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