Strawberry mix
□歩みよるということ
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かわいい子が昔から大好きだった。
それこそ、カッコイイって噂の同級生や憧れの的である先輩より、かわいい女の子の方がずっと気になっていた。
別にレズってわけじゃない。かわいい子は好きだけど、その子たちとどうにかなりたいなんて思ったことはなかったから。
だから、いつも通りだったはず――唯一つを除いて…。
「一年、氷帝学園マネージャーの柊心愛です。皆さんのお役に立てるよう、精一杯がんばりますので、よろしくお願いします」
ただ、いつもと違ったのはその容姿が異次元レベルだったこと。
それこそ、人を超越した存在……天使のような神聖さを纏った少女だった。
けれどふとすれば消えてしまいそうで……なんだか不安定で、普段だったら抱きつくなんてしないのに、気づいたら触れていた。
でもそれが、あの子の気に触った。どう考えても、悪いのは私だ。超えてはいけない境界線を、きっと私はとうに越えてしまっていたんだ。
「瑠璃…!!」
「わっ! え、英二先輩!? どうしました?」
「にゃー…さっきからずっと呼んでたのにぃ。瑠璃ってば気づかないんだもん」
「ええ!? ご、ごめんなさいっ」
全然気づかなかった……やっぱり、さっきの引きずってるのかな?
これ以上、迷惑掛けたくないし、心配もさせたくないのに……ダメだな、私。これじゃあ、心愛ちゃ――ううん、柊さんに嫌われて当然だよね…。
「……瑠璃、大丈夫?」
「なにがです? 私はいっつも元気ですよー英二先輩っ!」
「瑠璃……でもでもっ――」
「おっと、そこまでだぜ?」
精一杯な笑顔を見せるも、何か言いたげな英二先輩を遮ったのは意外な人だった。
「にゃっ…あ、跡部ぇ!?」
「フッ、菊丸。本人が元気だと言い張ってんだ。お前も男なら、それを信じてやるべきだ」
「……でも」
「言いたいことは分からなくもねぇ。だが、ここはこいつの気持ちを汲んでやるのが優しさじゃねーのか? アーン?」
「それは…そう、かも」
「分かったら五百蔵たちの手伝いをしてやってくれ。人手が足りないそうだ」
「りょうかーいっ! んじゃ瑠璃、俺行ってくんねーっ!」
「あ、はいっ! いってらっしゃい」
そう手を振りながら走っていく英二先輩に手を振り返して見送る。
うん。なんか英二先輩のおかげで少し元気出た。明るい人って、その場にいるだけで空気とか明るくなるんだよね。
だからあの子も夏希ちゃんと一緒にいるのかな?……ってダメだ。またあの子のことを考えてる。本当、嫌だな。こんなに引きずるなんて…。
「で、次はお前だな」
「跡部さん…」
「いつまで引きずる気だ?」
「それは――」
別に好きで引きずってるわけじゃない。むしろ早く立ち直りたい。
私がこれ以上引きずったらいけないのは分かってる。本来、サポートのためにあるマネージャーのせいで合宿の空気が悪くなるとか本末転倒もいいところなんだから。
「……心愛は天邪鬼だ」
「え…?」
静に、そう言った跡部さんに私はきょとんとする。
何を言おうとしてくれているのか、何を伝えようとしてくれているのかまだ分からない。
「心愛は素直じゃないんだよ。こう言ったらあいつは否定するが、本当は筋金入りの寂しがりやだ」
「心愛ちゃ、柊さんが…?」
「ああ。それと別に言い直さなくて良い」
「でも…私は――」
「心愛に嫌われてるから……か?」
「……」
「そうか」
沈黙は肯定。そう取ったんだと思う。まぁ、違わない。そう思ってる。
跡部さんもひどい人だと思う。わざわざ嫌われてる。なんて言わなくてもいいのに……でも跡部さんを恨むのはお門違いだ。ちゃんと分かってる。
跡部さんの鼻で笑った声が聞こえた。顔を上げれば、全てを見透かしたような跡部さんの目に僅かに目を見開いた。
「お前が思うより、あいつはお前を嫌っていない」
「なんで、そんなこと……」
「分かるさ。俺様の眼力(インサイト)を舐めるなよ」
「……」
本当に全部分かっているような目に……いや、本当に分かっているんだと思う。私は何もいえなかった。
「心愛は繊細なんだ。無償の愛情が欲しいくせに、いざそれを貰うとひどく臆病になる。自分を守るために虚勢を張って牙をむく。本当は傍にいて欲しいのにな」
「あ……」
「お前がそれでも……あいつと仲良くなりたいと願うなら――諦めるな」
「……はいっ!」
ほっとけなかったのは本当。笑って欲しかったのも本当。仲良くしたかったのも本当。
全部全部、私の本当の気持ち――なら、
「押して駄目なら押し倒せ$S愛は根気強く向き合えば必ず向き合ってくれる」
「はいっ! 私、諦めませんっ!!」
「フッ、そうでなくちゃ困るんだよ」
私は諦めない。私の選択一つ、行動一つで変わるのなら、私は諦めたくない。
それであの子が笑ってくれるかもしれないから。
「きっと、お前みたいな奴が――――心愛を救ってくれるんだろうな」
そう言った跡部さんの呟きは、私には聞こえなかった。