Strawberry mix
□今から、ここから
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「いろいろとアクシデントもあったが……喜べ野郎どもっ! ディナーの時間だ」
パチンと無駄に恰好つける跡部に一斉に歓声が上がる。いや、もはや雄たけびだ。それもそのはず。練習を終えて30分ほど休憩のはずが清掃時間と化したのだ。
念願の食事にありつけるということでテンションも当然あがるものだ。
「この際だから堅苦しい話はなしだ! 存分に楽しめっ!」
それを合図にあちこちで「いただきます」の声が聞こえ、各々平らげていく。
「うっめぇ! なんだこの炊き込みご飯!」
「ああ、それは霞先輩が…」
「マジかよっ!? いや、マジで! もぐもぐ…うんっめぇっ!!」
「あはは。褒めてくれて嬉しいけど、そんなに慌てて食べるもんじゃないよ。喉に詰まらせるぞー」
「はいっス!!」
桃城のあまりのペースの早さに霞が苦笑気味に止めれば、それを素直に聞き入れる。
霞も素直な後輩に柔らかく微笑めば、右隣から声がかかった。
「霞せんぱーい!」
「お、なんだ? 赤也」
「このポタージュが美味すぎるんスけど、これも霞先輩ッスか!?」
「いや、それは心愛だよ」
「心愛…? それって、まさか……氷帝の――」
「そうそう。ほら、金髪の…」
「ゲッ……マジかよ…」
「なんだ? なんか問題があるのか?」
「いや、その……俺、なんかあいつ苦手で……」
「まぁ、確かに近寄りがたいけど……」
「……なんかあいつ…誰かに似てる気がするんスよねぇ…」
「(……あ、分かった)幸村だろ」
「そう! 部長ッス!! っていけね! こんなこと言ってるのがもしバレたら……部長に殺される…!」
「(……否定できないな)」
ガタガタと冷や汗まで掻き始めた切原を、霞は苦笑しながら心の中で「ご愁傷様」と合掌した。幸村にバレない可能性のほうが低いのだから仕方ない。
「ねぇねぇ! どうどう? 夏希の作ったお味噌汁、美味しい?」
「ああ、旨いぜ! さすが夏希だぜ! な、侑士!」
「まぁまぁやな」
「ムム! おっしーってば辛口!」
「そないカリカリせんと、最後まで聞き。前作ったときよりは上達したんとちゃうか? これで心愛にまた一歩近づいたわけや」
「! おっしーそれって…」
「ああ、上出来や」
「おっしー…!」
「夏希にしてはな」
「っ〜!! 今、今感激したのに…! 夏希の感動を返せぇ〜っ!!」
「素直な感想や」
忍足の余計な一言で夏希は顔を真っ赤にしてポカポカと忍足の背中を叩く。
本人は至って真剣なのだが、そこは男女。それも中学一年生の女子の力では敵わなかった。
「亮! 約束のチーズサンドだよ。ちゃんと私が作ったからね!」
「おうっ! 相変わらず心愛は料理が上手いな。やっぱり、お前の作ったのが一番だぜ」
「フフ。当然でしょ! だって亮のために頑張ったんだもん!」
「ああ、偉い偉い」
「えへへ……あれ? 若は和食じゃないの?」
「……気分転換だ」
「ふ〜ん。珍しい。じゃあ、若は何が一番好きだった?」
「……別に」
「……そう」
「……だが――味付けは丁度いいな」
「! うんっ」
素直じゃない日吉なりの精一杯の褒め言葉に心愛は僅かに微笑んだ。
日吉の口角も僅かに上がっており、温かい空気が二人を包んだ。
「んふっ、やはり静さんは完璧ですね。どれも僕の舌を唸らせます」
「……ありがとうございます」
「静さん。僕は今とても機嫌がいいのですが……貴女に聞かねばならないことがあります」
「はい、なんでしょう?」
「先ほど六角中の佐伯くんとなにやら話してていたようですが……いったい何を話していたんです?」
「(…また始まった…観月先輩の過保護)いえ、特になにも…」
「ウソをつくとは…いけない人ですね、静さん」
「……」
「僕も好きで問い詰めているわけではないのですよ。出来ればこんなことは僕もしたくありません」
「(ならやめればいいのに…)」
「けれど! そうしなければ貴女を守れない…! 僕には貴女を守る義務があるのです…!!」
「はぁ…」
「なので静さんっ…! 何をはな――」
「うわぁぁああ! わりぃ静! そのドレッシング取ってくれーっ!!」
「あ、はい。祐太くん」
「ちょ――」
「いやぁ、やっぱサラダにはこれがないとなぁ…! いやホント助かったよ!!」
「う、うん。どういたしまして」
「……はぁ、仕方ありませんね。今日のところはこれくらいにしておきますか」
「ホッ…(なんとか観月さんの暴走を食い止めたぜ)」
「(ありがとう、祐太くん)」
「ですが、次はないですよ? 祐太君」
「ヒッ」
「(……ごめんね、祐太くん)」
何とか観月の尋問から難を逃れた静だが、その代わりに犠牲になった祐太に、静は心底同情した瞳で見つめた。