Strawberry mix

□難しい感情
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ドキドキと心臓が鼓動を打つ。今にも口から飛び出てしまいそう。それもそのはず。心愛先生のご指導の下、初めて料理といえるものが生まれたのだ。まあ、不格好で、ようやくスタートライン…といったところだけども。それでも私からしてみればかなりの力作なのだ。
そしてそれがみんなの口に入ろうとする……ドキドキしないわけがない。
けれど――










「なんでみんなそんなに私の卵焼きだけ避けるのかな…!!?」



食事開始から約10分。誰一人としていまだに私の卵焼きは手を付けていない。
いや、まあ…私のなんかよりみんなの方が美味しいのは分かってますけどね!!





「いや…その……も、もったいなくて食べにくいというか…」


「絶対嘘ですよね。大石先輩」


「う゛…」



顔にもろ「バレてる…!」と書いてある大石先輩にジト目で返す。





「ふーんだふーんだ。どーせ、私が作った料理なんて美味しくないですよーだ」


「そ、そんなわけないにゃ!! 瑠璃が一生懸命作ったんだからさ! ねね! 手塚もそう思うでしょー!?」


「あ、ああ……油断せずに行こう…!」



そう言ってくれた英二先輩も手塚先輩も異常なほど顔が青い。それを見ると、なんだか急に罪悪感が押し寄せてきた。





「や、やっぱり無理しなくて――」


「なっ、なんやこの卵焼き……!!」


「え…」



賑やかな食堂で響いた一際大きな声に顔を向けば、四天宝寺の忍足さんが目をギラギラさせながら……信じられないことに、私の作った卵焼きをガツガツと放り込んでいた…。
その光景に目を疑い、何度も瞬きを繰り返しても、やっぱり変わらず放り込んでいる。そして忍足さんと目が合うと、忍足さんはこっちにきた。





「な、なあ」


「はっ、はいっ!!」


「自分がこの卵焼き作ったんか!?」


「は、はいっ! そうでありますっ!!」



ビシッと敬礼をしてドキマギしながらも答える。すると忍足さんは輝かしい髪色に負けないくらい目をギンギンにさせて、私の肩をつかみ、まっすぐ目を向けられた。……え、ちょ、なんですか。私文句言われるんですか。不味いもん食わせてんじゃねーよって? ああ、そうなんですか、そうなんですね、すみません!!







「す、すみませ――」


「自分…卵焼きの天才やでっ!!」


「……え」



文句を言われると思っていたら、今仰った言葉はなんと? え、天才…? 誰が……と思ったらすぐに思い当った。





「はいっ! 心愛先生は天才の中の天才です!」


「うんうん。あのポタージュといいサンドイッチといい……ごっつ美味かったでぇ――ってちゃうわっ!!」


「ヒィッ!」



あまりの迫力に思わず悲鳴が出る。流石。本場のノリ突込みは違う…!!






「俺が言っとんのはなぁ…!! お前のことや!!」


「ああ、なんだ私……ん? わ、私…?」


「そや! た、たたた確か望月やったっけ? 自分のことや!!」


「え…え…?」



待って、混乱して頭がついていかない。ま、まさか…そんな。褒められるなんて…。








「ごっつ美味かったで。また食わせてな」


「っ…喜んでっ!」



ねえ、跡部さん。私にも……人を笑顔にさせることができたみたいです。
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