Strawberry mix
□れ
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練習が終わって…夕飯を作るにはまだ時間があり、部屋でのんびりしていた時のことだった。
突然ノックが鳴り、返事をして扉を開ければ……そこにはいつもの微笑みを携えた幼馴染と、どこか元気のない可愛い後輩の姿があった。
「幸村…と、赤也…?」
「やあ、霞。まだ夕飯の準備まで時間があるだろ? 少し話がしたいんだけど…いいかな?」
「それは構わないけど…」
「ならよかった。あまり人に聞かれたくない内容だからね。お邪魔してもいいかな?」
「ああ。入ってくれ」
「悪いね、お邪魔するよ」
「…ッス」
悪いとか言いながら我が物顔で入ってくるのはもう慣れた。もはやそれでこそ幸村だ。
対照的にいつもならはしゃぐはずの赤也がしょんぼりしたままで……私としては心配でならない。
そのためにも早く終わらせようと話を切り出した。
「で、話ってのは今朝の件でいい?」
「ああ。柊さんには改めて謝罪に行こうと思う。でもその前に、霞からも赤也に何か言ってもらおうと思ってね」
「……お前だけで充分だろ」
「そういうわけにもいかないよ。今回の件はそう簡単に許されることでもない。その原因が原因…ならね」
静かに目を伏せた幸村の言わんとすることを察し、私も胸が傷んだ。
全ての原因が何か…とは、あたしには分からない。けれど、今回の赤也の行動はすべてあたしのためを思って行動したということだけは分かる。
赤也だけが悪いと責めるべきではないと思っていたが、後輩の躾けも立派な先輩の仕事だ。慕ってくれるのであれば…なおさら。
そう思い、あたしはやっと赤也に向き直った。
「……赤也――」
「俺、自分が悪いとは思ってないッス」
「赤也…」
「だって! あいつのせいで霞先輩が迷惑してんじゃないッスか!! あいつが……余計なことするから…!!!」
何かを言う前に赤也が真剣な目で訴えてきた。それを宥めるように名前を呼べば、激昂した。だが次の瞬間には悲痛な叫びに変わっていた。
それは紛れもない赤也の本心で、理由だったんだろう。あのときも…そう言っていた。
やっぱり、赤也を苦しめたのはあたしだ。でもだからこそ、ここで引いてはいけない気がした。赤也を、自分を落ち着かせるように柔らかい声を出した。
「赤也」
「霞先ぱ――」
「あたしは確かに…苦労したけど、迷惑だと思ったことは一度もないよ」
そう言い切った瞬間、赤也の瞳が揺らいだ。
「そりゃさ…最高学年で、他のマネはみーんな年下でさ、あたしがしっかりしなきゃって粋がってたのは確かだけど……それでも、みんな一生懸命で、引っ張るどころか…学年の隔りを超えて助けられてた」
あの子達はみんな本当に優秀だった。
夏希は元気で人懐こく、その場にいるだけで周りを盛り立ててくれるし、親しみやすいからか弄られキャラと定着しているが、それでも愛されキャラだ。
なにより仕事に苦手なものがなく、どこにだって対応してくれた。
瑠璃は料理こそ壊滅的だったものの……掃除洗濯のスキルはピカイチで、いつだって綺麗にしてくれた。
だが生まれ持った天性の才能なのか…何かと不憫で、どこか放っておけない。周りがなんだかんだ言いつつも手を貸す理由もわかる。
静はデータ収集が得意で、最善のオーダーを組んでくれたり、練習メニューにも積極的に関わってくれる。静の作るお菓子はとにかく美味い。
一見大人しい子だが、話せばちゃんと答えてくれるし……自分のペースを崩さないところを密かに尊敬してる。
心愛は料理ベタな瑠璃をカバーできるほど料理が上手だ。苦手なことでも積極的に取り組んでくれる。
あれで周りをよく見ていて…さりげない気遣いができる子だ。早朝から自主練に励むみんなのために密かに差し入れを置いて回っていたことをあたしは知っている。
「あたしはあの子達に…助けられてばっかりだったよ」
情けない話。最年長にも拘らず、あの子達は自分でやるべきことを見出し、完璧にこなしていた。あたしが出る幕なんてなくて……本当はちょっと、寂しかった。