Strawberry mix
□の
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――夢を見た。
もうずっと前の……幼かった、無力だったころの記憶。
「心愛さん。これは跡部との繋がりをより強固なものにするために必要なことなのです。分かりますね?」
「はい、おばあさま」
「聞き分けのいい子で助かります。お前がちゃんと役目を全うしてくれるなら……お母様の立場も良くなるわ」
「……ほんとう、ですか?」
「ええ。すべては――お前にかかっているのですよ」
喉が渇く。とても、とても。
覚束ない足取りで給湯室へ向かう。頭が痛い。くらくらする。
手摺に摑まって階段をゆっくりと降りていく。
変な汗が流れる。息が荒い。苦しい――そう思った時には、足元はグラつき……階段を踏み外していた。
「あっ……」
「っおい!」
落ちる。そう思って衝撃に耐えようと目を瞑っていたら、急に腕が引っ張られて、全身を襲う痛みの代わりに腕が痛み、どこか慌てたような……それでいて鋭い声と瞳が私を射抜いていた。そう、その人は――
「ざい、ぜん……ひかる……?」
「ああ? 俺以外の誰に見えんやボケ。お前の目は節穴か」
「……その、毒舌……本物だ」
息が上手くできない。本当はいつもみたいに言い返してやりたいけど……口を開くのも億劫なくらい、息苦しい。
「お前……熱あんやろ」
「はぁ? な、わけ……」
「アホ抜かせ。熱やないんいうなら、お前は人間カイロか」
「? なに、言って……」
「熱い」
掴まれた腕に力を籠められる。
あ、なんか――
「ざい、ぜん……ひかるの……手、冷……たくて、きも、ちい……」
「そりゃ熱あるからな」
「そんなの、ないって……っ」
「おいっ」
頭が鈍器で殴られた様にグラグラする。視界が歪む。思わずふら付いて目の前の財前光に倒れこんでしまった。
……なんで、こんなやつに。
「……はぁ、しゃーないわ。おい、部屋どこや」
「っ……ず」
「はぁ?」
「お、みず……ほしい」
当初の目的であるそれを要望する。
何言ってんだこいつみたいな顔された気がするけど、気にしない。
部屋に戻ったって、どうせ喉乾いて眠れないだろうし。だったらダメもとで言ってみた方がいい。
「……ええから、部屋」
「……三階の突き当り」
「了解」
さっと背負われる。お姫様抱っこじゃないのかとか、結局水飲めないのかとか……言いたいことはあったけど、亮とは違うその広い背中が……予想以上に心地よくて、いつの間にかそのまま眠りについていた。