【delicious×blood×charm】(デリシャス・ブラッド・チャーム)

□■第二夜■
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「…………」

「…………」


暫しの沈黙。
悲痛な面持ちになっていた朋は、リビングにある机の前で胡座をかき、俯き続けた。


「……グスッ」

「……ふあっ」


未だ泣いている朋にコーヤは何も言わず、欠伸を一つ。
朋の斜め横に座り脚を伸ばしていた彼は、天井を見たり、壁を見たりしながら、ボーとしていた。
やがて、落ち着いた朋が口を開いた。


「……ありがとう」


ぽつりと呟いた声は小さく、泣いていたからか、声が震えていた。


「ん?」

「最後、爺ちゃんに触れたのお前のおかげだ」


何の事か分からずコーヤが首を捻ると、朋がお礼の意味を喋った。
その理由にコーヤは、目を伏せ机を見ながら、「ああ」とだけ淡々と言った。


「……何で触れたんだ?」


疑問に思っていた事を朋が聞くと、コーヤが説明をし始めた。


「魔のモノが、どちらかと言えば人間よりも霊とかの存在に近いのは、お前も知ってるよな?」

「ああ」


妖怪の一部には神だったり、神に近い存在だったりする者も居る。
彼らは天国や地獄へも行き来が出来る。
寺の子である朋は、勿論、魔のモノが向こうに近い存在である事を知っていた。
だからこそ、祖父がコーヤの事を叩いても彼は不思議になど思わなかったのだ。


「ジジィが、俺の襟を掴んだだろ?」

「ああ、掴んでたな」

「て、事は俺が触れている物も触れんじゃねぇーかと思ってな」

「あ! なるほど。そういう事か」

「まあ、つっても、ジジィがそんだけ霊力あるからってのもあるんだろうがな」


祖父だから、朋に触れたのだ。
常人の霊では絶対出来なかった。
それをコーヤが言うと、朋も賛同したのか、うんうんと何度も頷いた。


「あ、それから護ってくれる……ってのも、その、ありがとな」


これに関しては吸血鬼とは言え、男に護られる形となった朋は、複雑そうに礼を述べた。
有り難い事は有り難いが、やはり何とも言えない気持ちになっていた。


「まぁ、ジジィの頼みだしな」

「…………」


一体どれ程の恩を感じているのだろうか。
どちらかと言えばこれは忠義に近い。
朋は、コーヤをじっと見、性格は合わなくとも仲良くすべきか……と考えた、のだが。


「それに、食事させてくれんだろ?」

「っ」


コーヤが今、現在進行形で腹を空かせていた事を思い出し、顔色を悪くした。


「……お前、倒れる程、今空腹なんだよな?」

「ああ」

「…………」


己を見ているコーヤの黒檀色した双眸が、妖艶さを孕んだ紅色に変色したのは気のせいか。
朋は、自身の目を右手の指で擦り、コーヤの双眸をもう一度確認し、首を捻った。
コーヤの眸の色は、間違い無く黒で、紅く無かった。


「そういえば、吸血鬼ってどれぐらい飲むんだ?」


流石に空腹の儘、放置する訳にはいかない。
しかし、かと言って、多量となると自身の身が持たない。
机に両手を置いた朋は覚悟と共に、コーヤに訊ねた。


「死ぬまで吸わねぇーよ」

「それ、答えになってねぇーぞ」


適当な返事に朋が胡乱な目を向けると、コーヤが今度は正直に答えた。


「100飲めば、1週間は持つ」

「…………」


献血だと200mLで、約1ヶ月、次の献血まで間隔を空けなければならない。
そう考えると、これは多い。
せめて、100で2週間は空けたいところだ。
対策を練らないといけなくなった。


「今回は例外だが、俺の血を飲むのは俺の身が危なくなってから……とかどうだろ」

「狙われた瞬間、飲んでる暇あんのか?」

「…………」


そんな暇は無い。
力が上がるというのに、悠長に待つ魔物など居よう筈も無い。
だからと言って毎週、そんなに飲まれては、魔物云々の前に死んでしまう。


「この血って一滴とかでも力上がんのかな」


一滴でいけるのであれば、針など持ち歩き、瞬時に口に含ませれば良い。
食事と、力を与える時。
それらを別々に考えた朋が言うと、コーヤが首を傾げた。


「さあ、分かんねぇーな」


極上の血を飲んだ事が無いコーヤにはその辺の事までは分からない。
何せ、数億に1人と言われる稀な血なのだ。
産まれた瞬間や、母体に宿っている時に、食い殺されている場合もある事から、飲んだ事のある魔物もほぼ皆無と言える。


「つーか、吸血鬼って血以外の食事しねぇーのか?」

「……あー」


朋の質問に、コーヤの目が泳いだ。
どうやら彼は何かを隠している様だった。



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