【短文】

□【親友を揶揄ったら鳴かされた】
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宅飲みするんじゃなかったと、幸義(ゆきよし)は思った。
と言うより、親友である爽詩(そうし)の事を揶揄ったのがそもそもの間違いだった。
しかも、揶揄る材料が全くの見当違い。
やってしまったと思った時にはもう遅かった。


「人が歪んだ性癖に悩んでるっつーのに、ったく、お前ひでえ奴だったんだな」

「ひーっ、ご、ごめんっ、謝るからっ!」

「謝んなら、責任取れ」

「む、無理無理っ!」


幸義と爽詩は高校時代からの親友だった。
彼らは高校一年生の時、同じクラスになり、直ぐに打ち解けた。
気の置けない仲になるのに、然程時間は掛からなかった。
偏差値も進む道も一緒だった事から、二人は同じ大学へ入学した。
二人はどうせならと、2LDKの部屋を借り、ルームシェアする事にした。
彼らは今の今まで喧嘩せず、相談し合い、助け合い仲良く暮らしていた。
そう。
今の今まで仲が良かったのだ。


「俺は本気で悩んでんだぞ」

「うぐっ」


平穏をぶち壊したのは、幸義だった。
幸義は高校時代からモテる爽詩を純粋に、凄いと思っていた。
が、気付けば付き合った人数が三十五人。
大学に入ってからは、特に酷く一ヶ月とて持たない。
幸義にとって、それは首を傾げる事だった。
爽詩は平等に優しく、芯が有り、男らしく頼りになる。ルックスも当然ながら良い。
なのに、直ぐに別れる。
意味が分からない。
今までは理由を聞いても、性格の不一致としか言わず、幸義はどうしたもんかと思っていた。
やはり、親友には幸せになって欲しい。
幸義はとある仮説を立てた。
性に関する何かがあるのだと。
EDなのか、セックス下手なのか。


「親友なら助けてくれるよな?」

「だから、無理だって!」


酔った勢いで、彼女と長続きしないのは、「セックス下手だからだろー!」と言ったのが間違いだった。
しかも、にやにやと揶揄りながら。
気付けば押し倒され、「強姦プレイと視姦プレイが問題だけど?」と耳元で囁かれた。
ハッと我に返った時には、首筋に吸い付かれ、キスマークを付けられていた。


「き、きっとお前に合う女が居るから、早まるなって!」


幸義は鈍感ではない。
責任と言われて、何の事か分からない程、初でも無い。
だからこそ、焦りに焦っていた。
眼前の人物が切羽詰まっているだけに、余計だった。


「三十五人付き合っても居なかったんだが?」

「お前なら、百人はイケるっしょ!」

「俺は本気で嫌がらねぇーと冷めんだけど?」

「……は?」

「だーかーらー、本気で抵抗する女じゃねぇーと燃えねぇし、冷めんだって」

「お前、それって付き合って相手がお前に惚れれば惚れる程……」

「そ、俺は冷めるって訳」

「…………」


これは理解し難い性癖だった。
相手が本気で嫌がり抵抗する姿に欲情するという事は、その反対が無理だと言う事だ。
付き合って、最初の頃は女性も恥ずかしいや嫌だと言うかもしれない。
が、慣れてしまい、女性がどんどん爽詩に溺れて行けば行く程、雰囲気も甘くなる。
強姦プレイを要望しても、演技だと分かる。
なら、本気で怖がらせ無理矢理という手もあるが、それをした時点で爽詩は人として終わる。
女性は確実に爽詩から離れて行く。
爽詩もそれが分かっているのか、本気で悩んでいる様だった。
この分では近頃、満足に女性を抱いていないのではないか。
幸義を組み敷きながら、欲の籠った目を向けているのが、何よりもの証拠だった。


「あっ、ちょっ、触んなっ、駄目だって!」

「なーにがセックス下手だ。だったらその身で体験してみるか?」

「ご、ごめんって!」

「怯えんな、マジで抱くぞ」

「っ」


やってしまった。
燃料を投下してしまった。
そうは思うも、こんな爽詩は見た事が無い。
畏怖の心が湧き、身が震えた。


「チッ、もう無理だ」


性欲を発散出来ず、ここのところモヤモヤしていた爽詩にとって、幸義の反応はアウトだった。
酒の力も大きく、簡単に理性の箍が外れた。
彼は、自分を止められなくなった。


「あ゛ッ、痛ッ!」


服の上から、乳輪ごと乳首をがぶりと噛まれた。
幸義は容赦ない痛みに、仰け反り爽詩の胸を押した。


「止めッ、爽詩っ、しゃれになんないからッ!」

「うるせぇ」

「あぐッ!」


苛立った爽詩が、乳首を強く強く噛んだ。
噛み切る勢いだった。
生理的な涙が、幸義の目に浮かぶ。
揶揄った事を後悔してももう遅いが、後悔せずにはいられなかった。


「爽詩、ごめんっ。お前がそんな悩んでるって知らなくて。揶揄って……」

「だから?」

「だから、もう許してくれっ、それに、こんな事したら、親友でいられなくなんだろっ!」

「親友なら、辛い思いしてる俺を助けてくれても良いんじゃねーの?」

「それとこれとは話しが別だろっ! それにお前だったら、今からでもナンパすれば……んぐッ!」


話しをしている最中だと言うのに、肉棒を握られた。
しかも、強めに。
急所を掌握されては、何も言えない。
幸義は絶望の色を顔に滲ませた。



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