【短文】

□【ねぇ、俺が飽きるまで遊んで?】
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「もしかして『孤高の皇帝』のママさんが、優斗のパパさんの愛人だったりして〜。それで、その息子を入学させたとか〜」

「…………」


揶揄った快理を無言で見詰める優斗。
彼は無意識にしているのだが、その眸には黒くどんよりとしたモノが滲んでいた。

教室の空気が冷たく重くなる。


「あ、ヤベッ! 逃げろ!」


殺される……と身の危険を感じた快理がその場から消える。
脱兎の如くだった。


「逃げちゃった」

「そうですね」


ペロッと舌を出した優斗の表情は、折角狩ろうとしていた獲物を失った狩人の様だった。


「で、宮は知ってるの? その『孤高の皇帝』っての?」

「ええ、聞いた事は……」

「学校に来てるの?」

「噂では毎朝、職員室に顔を出して出席をアピールしているみたいですよ」

「あはは、何それ〜」


両手を頬に置き、女の子の様なポーズをした優斗がカラカラと笑う。
その様子は、楽しそうだった。


「此処に入って来れば良いのにね〜。テストは、どうしてんだろ〜?」

「別室で受けているのでは?」


入学してから3ヶ月。
その間、試験が何度かあったが、それらしい人物がこの部屋に入って来た事は無い。
それならば……と宮が言うと。


「うっわ〜、謎だらけだなぁ〜」


優斗の眸が爛々と輝いた。
『孤高の皇帝』に、完全に興味の心を持っていかれていた。


「このクラスなら調べたら本当の名前も分かるし、探してみよっかな〜」

「名前は『神直 紘夢(かんじき ひろむ)』です」

「さっすが〜、宮。クラス全員の名前知ってたんだな〜」

「当然です」


優斗に褒められだ宮が、それぐらいの情報は知っていて当然だとばかりに頷く。


「う〜ん、でも、神直……神直かぁ」

「どうしたんです?」


宮は、顎に手を置き考える仕草をとった優斗を不思議そうに見詰めた。


「な〜んか、聞いた事あるような無い様な……」

「お知り合いですか?」

「う〜ん、分かんない。会ったら分かるかな」


紘夢に会いたくなった優斗が立ち上がり、教室から出ようと足を動かす。


「いってらっしゃいませ」

「いってきまーす!」


もう少しで、休み時間終了のチャイムが鳴るのだが、優斗の行動を宮は止めない。
こうなった優斗が止まる訳が無いからだ。
止める必要も意味も無い。

優斗の扱いを分かっている宮は「ふぅ」と息を吐くと、優斗が教室から出るのを見送ったのだった。



***



紘夢の見た目は、至って平凡。
髪の毛は染めておらず、真っ黒。
しかし明らかに、この学園には相応しく無い。
毛並みが違う雰囲気を持っていた。
それ故に不良≠ニ思われていたのだと、誰にでも容易に想像が付いた。


「…………」


紘夢は、目の前の人物が言った言葉に冷ややかな眸を向けた。
何故、こんな言葉が出るのか意味が分からなかった。
そもそも少し前に突然現れ、勝手に横に座り、勝手に話し掛けて来ただけなのだ。

唐突に脈絡も無く言われた理解不能な台詞。
その台詞を発した人物を見遣り、紘夢は溜め息を吐いた。


「全て優秀なのに性格は欠陥有りって、残念だな、あんた」


目付きの悪い目付きを益々狭め、紘夢が優斗を睨む。


『見付けた〜。ねぇ、君の名前って神直 紘夢って言うの?』


屋上にある透明な屋根付きの庭園で寛いでいた紘夢は、午後の授業が開始されるチャイムの音を聞きながら一人地面に座り、空を眺めていた。

静かな空間。
そこに突然響いた低いながらも間抜けた声に、紘夢は怪訝な表情になった。
無視を決め込んでいた紘夢だったが、あまりのしつこさに、己が神直 紘夢だと認めた。
優斗は認めた紘夢に笑みを向け、自身の名前を告げ、紘夢の隣に座った。
他愛の無い話しを始める優斗の話しを右から左に流し、紘夢は空を見続けた。
すると突如、優斗が紘夢の肩を軽くポンポンと叩きながら口を開き。


『オレとセックスしよ〜』


と、言って来たのだ。


「…………」


『欠陥有り』と言った後、紘夢は口を閉ざし、これ以上、優斗に関わりたく無いと立ち上がろうとした。


「逃がさないよ」

「っ!」


優斗が紘夢の肩を掴み強引に芝の上に押し倒す。
あっと言う間の出来事に、紘夢は目をパチパチとさせた。




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