【短文】

□【アゼッタ物語】
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「あ〜〜、アゼッタ姫ぇ〜。何処に居るんだよ〜」

「また、アゼッタ姫の事ぉ? もうっ、いい加減仕事してよねっ、玲音っ!!」


此処は、私立変幻(へんげん)高等学校の生徒会室。
女子はセーラー、男子はブレザー姿で生徒会の仕事に励んでいた。

この高校は世間一般では『変わっている』と言われる人間。
つまり、厨二病や電波と言われる様な生徒。
超能力者や、先読みの占い師、前世持ちや、人造人間などなどが通っていた。

生徒会では、六人皆が皆共通する前世の記憶を持っていた。
彼、彼女たちは偶然なのか必然なのか……。
前世と同じ、おのおの親同士決めた婚約者同士だった。

この高校に入った際、互いに顔を知る事になった六人。
おのおのが生徒会に入ったのも、偶々の偶然だった。

互いに、前世の記憶が同じ時代、同じ場所である事が分かったのは。
生徒会役員として自己紹介をした時だった。

この高校に来ているのだ。
余程が無い限り、自身の秘密を隠す者は居ない。
一人が言うと生徒会室が、ザワついた。

共通する記憶だと……。

前世の記憶を思い出したのも同時期の様で、中2になったばかりの頃のようだった。


「俺たちがここに居るんだから、アゼッタ姫も絶対ここに居ると思うんだけどなぁ〜。」


婚約者である赤石 実希(あかいし みき)に注意されても、緑澤 玲音(りょくさわ れおん)はめげず、アゼッタ姫の事を呟く。


「ほんっとーっに、いい加減にしないと先生が来ちゃうよ!」

「赤石の言う通りです、玲音、計算をきちんとして下さい」

「ぶ〜、凰翔ちんまで〜」


長机に顎を置き不貞腐れた玲音が言うと、黒之内 凰翔(くろのうち おうが)が、黒曜石色した瞳を彼に向けた。


「わわっ! やります、やりますよっ」


無機質な冷たい目線に、背筋を凍らせた玲音が、直ぐに電卓で計算を始める。


「怒られちゃったね、大丈夫?」

「こ、怖いよ、夏っちん。凰翔ちん、怖いよ」


隣に居た黄野 夏(きの なつ)が心配そうに、玲音に声掛けると。


「怒られて当然です」


美人の青識 弥世(あおり やよ)がピシャリと言い放ち。
それに賛同した茶原 舞(ちゃはら まい)までもが、うんうんと頷いた。


「舞ちんまで〜」


ほんわかした舞にまで賛同され、玲音ががくっと肩を落とす。
が、直ぐに下を向き、驚異の速さで電卓を叩きだした。


「後少しで先生が来ます。皆さん、頑張りましょう」


周りを見渡した凰翔が励ます様に言うと「はいっ!」と全員が返事をした。

生徒会顧問が来るまで後一時間。
何としてでも書類を間に合わせ様と、生徒会役員六人、気を引き締めた。


「おーい、お前ら〜、終わったかぁ〜」


何とも間延びした声で生徒会室に入って来たのは、ボサボサの髪に眠そうな目付きの、白衣を着た顧問だった。
そんな成りをしている顧問だが、男女共に人気が高い。

顧問が書類を催促しに来た事で生徒会室が、慌ただしくなった。
書類は未だ出来ていなかった。


「白河先生。もう少しなんで、これ飲んで待ってて下さい」


凰翔が即座に熱いお茶とお菓子を用意し、机の上に置く。
促される儘、白河 桃摩(しらかわ とうま)は、端の椅子に座った。


「んじゃ、仕事も終わらせて来たし、もう少し待つとしますか」


湯飲みに口を付けた桃摩が、火傷しないようフーフーと冷まし、ゆっくりとお茶を飲む。
然うして、口を放し、業務に勤しむ生徒たちを見て朗らかに目を細めた。

数十分後……。
高速で電卓を打っていた玲音が、集中力を途切らせ長机に突っ伏した。


「あ〜、こんな時にアゼッタ姫が居れば、力が湧くのに〜〜っ」

「…………」

「アゼッタ姫〜〜っ!!」

「…………」


顧問である桃摩に態と聞こえるよう、アゼッタ姫の名前を出す玲音。
何か思惑がある様で……。
その名前を聞いた桃摩が、身を強張らせた。
だが、それも瞬きの間で。
彼は、直ぐにお菓子を噛んでいた口の動きを再開させた。



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