【短文】
□【犬猿の仲に愛は芽生えるのか】
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「……ん?」
親衛隊が使っている部屋に行っても無人。
親衛隊隊長のクラスに行っても無人。
後は何処を探して良いのか皆目検討が付かなくなっていた委員長だったが……。
二階の渡り廊下から見える体育館入り口に、見知った顔を見付け、足をそちらに向けた。
「おい、お前。確か、俺の親衛隊の一人だよな?」
「っ!」
体育館入り口に辿り付いた委員長が、チラッと外を窺う人物に声を掛けた。
すると、相手はビクッと体を跳ねさせ、次いで顔面蒼白になり、口をパクパクと動かした。
「あ……の」
漸く声を発した男子生徒。
その声は上擦り、上手く出せていなかった。
「あ、才賀様っ!!」
体育館の中に居た親衛隊数人が、外の様子に気付き、外に出て、委員長である才賀に声を掛ける。
才賀は、親衛隊たちに目を遣り、その隠せていない空気を読み取った。
「……中に入るぞ」
どう考えても可笑しい。
親衛隊たちは、皆、顔色が悪くなり目が泳いでいた。
「あ、お待ち下さいっ! 才賀様っ!!」
親衛隊たちの様子を怪しく思った才賀が、中に入ろうと扉に手を掛けると、焦った親衛隊の一人が才賀の腕を掴み、頭を振った。
「駄目ですっ!」
「何が駄目なのか言ってもらおうか?」
「っ!」
身長185越えの才賀が眼光鋭く、親衛隊の一人を睨み付けた。
生徒は蛇に睨まれた蛙の如く、恐怖に竦み上がり、体を震わせた。
「チッ! うざってぇ」
生徒の手を振り払った才賀は、躊躇せず中にズカズカと入って行った。
そして、体育館倉庫の前に立ち塞がった数人を射殺す目で往なし、鍵を奪い取って、その重苦しい扉を力任せにこじ開けた。
ゴッ、ガラガラ、ガコンッッ!!
限界まで開けられた扉が壊れる勢いで打つかり、大きな音を立てる。
見張りをしていた親衛隊たちの様子から、ある程度、予測を立てていた才賀だったが、眼前に広がった光景に、溜め息を吐きたくなった。
と、同時に犬猿の仲である会長の形貌に愉快な気持ちにもなった。
自然と口角が上がる。
「よう、井瑞会長さんよぉ、どうだい気分は?」
「っ!」
大嫌いな相手にあられもない姿を見られた井瑞は、グッと下唇を噛み締めた。
この様子から、彼はこれで助かった……などとは微塵も思っていない事が誰からも見てとれた。
きっと高く高い自尊心が傷付いたのだろう。
彼は才賀から露骨に目を逸らし、首さえも捻った。
「あ、あの、才賀様。こ、これは……ですね」
見張りたち同様、今にも卒倒しそうな顔色になった親衛隊隊長が、才賀にすがり付く様な目を向ける。
声は震え、怯えていた。
「さ〜てと、馬鹿なお前らに言っておいてやる」
可愛らしい顔立ちをしている隊長の言葉を華麗にスルーした才賀が、親衛隊たちに低く冷徹な声色を向ける。
「井瑞を犯して写真撮って脅して口止めとか思ってたら、甘ぇーぞ。コイツは写真バラまかれてでも、お前らをこの学園から追放するだろうし、社会からも抹殺しようとするだろうな」
「!!」
「なあ、そうだろ、井瑞? お前はそういう男だよな?」
「ふん、良く分かったな」
毎日のように喧嘩をしているからか、才賀は井瑞の事を良く分かっていて。
同意を求められた井瑞は不本意ながらも、肯定した。
隊長や副隊長含めその場に居た六人がその言葉とやり取りを聞き、膝から崩れ落ちた。
想像もして居なかったのか。
叩き付けられた現実に、号泣する者も居た。
「大方、俺と仲の悪いコイツに制裁を……って思ったんだろうが、やり方が気に食わねぇーな」
「さ、才賀さ……ま」
「風紀の俺が制裁を望むとでも思ったのか、テメェら?」
額に青筋を浮かべた才賀が隊長に近付き、その胸倉を掴み、ドスを利かせた声を発する。
その迫力と威圧に隊長の股間がじわりと小水により濡れてしまった。
「で、ですが、我々は才賀様の為を思い……」
「あ゛? 五月蝿ぇ、何言ってやがる? こんなのはテメェら一人一人の善がりじゃねぇーか」
「っ!」
副隊長がフォローを入れようとするも、才賀がそれを一蹴する。
親衛隊たちは、才賀と仲の悪い井瑞を疎ましく思い、勝手に憎悪を募らせ。
制裁を加えれば、井瑞を嫌いな才賀が喜ぶと。
話せば理解してくれると。
勝手に思い込んでいた様だった。
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