【短文】

□【霹靂の時間】
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山の中にある全寮制の燦封(さんぽう)学園。

此処は、幼児部から大学部までエスカレーター式となっている学園である。
通っている生徒は初等部から高等部までは男子のみで。
女に飢えた者たちは休日に、外出許可を取り、外界へ出たりしていた。

学園を守る為の高等部の委員会は、生徒会、風紀、環境美化、保健、生物、広報、図書の七つからなっており。
そこに、学級委員と学級委員から選抜された学年委員長が居た。

週に一度、金曜日の放課後に30分ほど行われる会議。
これには、長≠ニ言われる者しか参加出来ない。
よって、副≠ニ付く者は参加出来ない。
この日も、会議室に集まったのは長と呼ばれる者たちだけで。
彼らは、学園をより良くする為に情報の交換を行っていた。


「じゃあ、生物委員長の滝澤から言ってくれるか?」


会議の指揮を執るのは、やはり生徒会長の仕事だ。
会長である久宝 天煌(くほう たかあき)
その人物の容姿は、耳が全て見える長さの黒髪に、右分けの前髪。
標準体重より、2、3キロ細いながらも体力作りにより、付いた筋肉。
吊り上がった目に少し大きい眸。
それを縁取る睫毛は平均ながらも、それが彼にはよく似合っていた。
目力が強い彼からは確固たる意志をも感じる。
若干ぷっくりとしている下唇は、噛み付きたくなる程の色気を放っているのだが、本人は全くその事に気付いていない。
彼が癖で無意識にするシャーペンを下唇に当てる動作は、周りからすれば目に毒だった。
そんな彼は今、長机の前列に一人だけ座り。
目の前に座る九人に目を遣った後、生物委員長の方を見遣った。

一番右側の窓際に座っていた生物委員長である小柄な滝澤 幸之(たきざわ ゆきの)は、ブレザーを着る代わりに、袖の長いカーディガンを着ており。
持って来ていた猫のぬいぐるみを片手でギュッと抱き締め、大きな大きな眸を細くして、手に持っているメモを読み始めた。


「えっと、うさちゃんも鶏さんもヒヨコさんもワンちゃんもネコさんも熱帯魚さんも、みんなみんな元気にしてたよ〜」

「怪我や病気をした動物はいなかったのか?」

「うん、食欲も旺盛だし。ふれあいの時間も、変に生徒たちがストレスを与えないか、僕たちが見張ってるからね」


久宝が聞くと滝澤が問題無いと答え、微笑した。
久宝は、動物の虐待などが無い事を確認し、次に、滝澤の隣に座る図書委員長に目を向けた。


「んじゃ、次、図書委員長の宙内、言えるか?」

「…………」


図書委員長の宙野 翠(ちゅうの すい)は、何時も話し始めるのが遅い。
猫背を益々猫背にした宙野は、天然パーマながらも長い前髪の隙間から、チラッと大きな猫の様な目を久宝に向け、肩を不安げに震わせた。


「焦らなくて大丈夫だからな。ゆっくりで良い」

「…………」


久宝の言葉に、宙野のソワソワした気持ちが落ち着く。
宙野は目を机に遣り、事前に自分で書いたプリントの文字を読んだ。


「本、皆、綺麗に、使ってる。たまに、ご飯、お菓子、挟まってる……のもある。返却期間、過ぎた子は、言いに、言った」

「直ぐ返って来たか?」

「うん」


一つ一つ区切り話す宙野に久宝は何も言わない。
久宝は安心する様に声音を優しくし、それに応えるかの様に宙野が返事をした。


「よく出来ました」


隣に座っている滝澤が、言いながら宙野の頭をナデナデした。
すると宙野が猫の様に目を細め、嬉しそうにした。
それを見た久宝は、フッと笑みを深め、宙野の隣に座る保健委員長を見た。


「んじゃ、次は、保健委員長の檀の番だ」

「コホン」


檀 正臣(だん まさおみ)は、前置きとばかりに咳払いし、掛けている眼鏡の中心を指でクイッと動かし、資料に目を通した。


「保健室の利用者の数は前の会議の時から、然程変化はありません。学園のカウンセリングを受けている者も同じ人物ばかりです」

「新たに……は居ないと言う事か?」

「寧ろ、一人改善に向かい必要なくなりました」

「そうか」


一人でも減った事に、久宝は嬉しく思った。
病んでいる者が改善に向かう事は良い事なのだ。


「怠慢で授業を休み、保健室を使う者もこの一週間居ませんでした。養護教諭が居ない時は、我々が鍵を管理しておりますので、良からぬ事をする者も当然ながら居ませんでしたね」

「フッ、流石だな」


何時だって檀は抜りが無い。
彼は、全校生徒の既往歴まで頭に入っている。
何より彼が凄いのは、すれ違うだけで相手の体調が悪いかどうか分かるところだ。

彼の前で、やせ我慢≠ヘ通用しない。
絶対に見破られる

久宝は、完璧である檀に賞賛の言葉を掛けた。
すると、檀が少し言いにくそうに言葉を足した。


「ただ残念ながら、嫌がらせを受けた事により、保健室を利用した者が居ます」

「……それはイジメでは無いのか?」


心配そうに久宝が聞くと、檀が背後に座る人物に声を掛けた。



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