【短文】

□【霹靂の時間】
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「一年、学年長」

「はい。それについては本人に確認致しましたところ、フラれたのを、からかわれた……という話しでした」


檀に促され、一年生の学年委員長が説明した。
久宝は、なるほど……と頷いた。


「傷心の身でからかわれたら、そりゃ籠りたくなるよな。で、それからは大丈夫なのか?」

「はい、きちんと登校しております」

「そうか……なら良かった」


問題無いと分かった久宝がホッと胸を撫で下ろす。
次いで彼は、風紀委員長の方を半目で見遣った。


「風紀委員長、この二週間変わった事はあったか?」

「俺が、きっちり学園の風紀を管理してんだ。問題ある訳無ぇーだろ」


保健委員長である檀とは対照的である名取 威心(なとり いしん)

彼の報告は何時もこうだ。
具体的では無い。
故に、こちらから質問しなくてはならない。
久宝は溜め息を吐きそうになりながらも、口を開いた。


「学園全体の警備をして、何か目立った事はあったか?」

「あ゛? お前が心配してる強姦とかなら無かったぞ。報告も上がって無ぇ」


どの委員会もそうだが、自分が務める先の長に、何かあれば報告する義務がある。
名取は他の風紀委員から問題は聞いていない様だった。
と、言う事は、久宝が質問した目立った事は無かったという事になる。


「3日前に起こった喧嘩。あの時、停学になった一人はそれから大丈夫なのか?」

「あ〜、別れ話しのもつれのやつだろ?」

「ああ」


3日前、寮内の事だったが別れ話しのもつれから。
フラれた男が男に、飛び掛かった。
直ぐに、風紀委員長である名取が間に入り、事なきを得たが。
殴った相手は、五日間の停学処分となった。
それを気にしていた久宝の質問に、名取が「あ〜」と言いながら後頭部をガシガシと掻いた。


「その件ならソイツの組の学級委員長に任せてある」


言いながら名取が、背後を向き、二年の学年長に目配せした。
二年の学年長はこくっと頷き、久宝を凛々しい目で見詰めた。


「C組の学級委員長の報告では、彼は停学は仕方ないと受け入れているそうなんですが、やはりフラれた事に関しては落ち込んでいるみたいで……」

「は〜、一途だね〜」

「…………」

「オイオイ、会長さん。そんな目で睨むなよ」


停学を食らった相手に対し、揶揄る様に言った名取に、久宝が無言で威圧と睨みを食らわせた。
それを見た名取は態とらしく肩を竦め、片目を眇めた。


「鈴木」

「はい」


久宝は二年の学年長に目を向け、その名を呼んだ。


「今日の夕食後、そのC組の生徒に会いに行く事にした。俺が行くと話しを付けておいてくれ」


神妙な面持ちになった久宝が言う。
すると、鈴木が目をかっと見開いた。


「え?! 会長自らですか?!」

「ああ、当然だろう。それほど落ち込んでいるなら話しも必要だろうしな」

「いえいえ、それはC組の学級委員長と俺の仕事ですし、それに友達も励ましてますからっ!」

「否、学園の生徒がそんな状態になっているのを会長が放っておく事は出来ない」

「っ」


久宝の真剣な眼差しと、有無を言わせぬ言葉に、鈴木が喋りを止めた。
しかし、やはり会長である久宝の手を煩わせる訳にはいかない。
彼はどうしたもんかと……考えた。


「あはっ、相変わらず会長ちゃん、糞真面目ね〜」


突如、会話に割って入って来た人物。
学年長を助けたのは環境美化委員長の小野寺 雅(おのでら みやび)だった。


「…………」

「も〜、そうやってお堅い顔を向けないの。老けちゃうわよ?」


短い爪に、ジェルネイルをしていた小野寺。
彼はLEDライトを照射しつつ、久宝を見て、ニッコリと微笑を浮かべた。
こんな話し方をしているが、彼はれっきとした男だ。

久宝は、小野寺がこんな話し方をしていない時代を知っている一人だった。


「はあ」


頭が痛くなったと言わんばかりの表情になった久宝が額を押さえ、俯いた。
小野寺は久宝を見て、薄く張りのある唇を上に上げ、目を細めた。


「会長ちゃん。言っちゃあ何だけど会長であるアナタが自ら行ってもC組の子が萎縮しちゃうだけだわ。逆効果よ?」

「っ」


喋りはこんなだが、諭す様に言われた久宝は、押し黙った。
小野寺が言っている事は、正しかった。



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