【短文】

□【人の話を聞きやがれ】
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ピンポーン。
ピンポーン。

インターホンから二回鳴ったチャイム。


「ん? 誰だ?」


一人暮らしをするマンションの一室で仕事終わりのビールを飲もうとしていた二階堂 斉史(にかいどう まさし)は、モニター越しに映る人物を認め「はあー」と嘆息した。


「せんぱぁ〜いっ!!」


二階堂がチェーンを外し鍵を開けると、玄関先に、愛想良い犬の様な男が半泣き状態で立っていた。
その男は何の躊躇いも無く、肩に白いバスタオルを掛けた二階堂に、ガバッと抱き付き、その首に顔を埋めた。


「っ、お前……ッ、夜の10時だぞ、分かってんのか?」


明日の仕事は休みとは言え、アポ無し訪問をするには、非常識な時間帯。
そんな時間に来た中型犬……元い、大倉 睦(おおくら むつ)
彼は人懐っこい顔を、ふにゃりと緩め、顔を上げた。


「先輩っ、先輩ぃいい〜!」

「あ゛ー! 汚ぇ! 俺、風呂入ったばっかなんだぞ!! 鼻水付けんなぁああ!!」


大倉に抱き付かれていた二階堂が、大倉の両肩を掴み、己から引き剥がそうと藻掻く。
入浴後、カラッカラに渇いた喉に一杯となっていた彼は、至福のひとときを邪魔され、完全にキレそうになっていた。


「またフラれちゃいました〜」

「はああ?! またか?」


仕方なしに部屋へと大倉を招き入れた二階堂は、ローテーブル前で正座をし、しゅんと肩を落とした大倉の台詞に眉尻を上げ、素っ頓狂な声を出した。

大倉 睦、齢23。
入社して約半年。
二階堂が知っているだけで、既に彼は6人の女と別れていた。


「で? 今回の理由は?」

「最中にアナルセックスさせて〜って言って肛門触ったら、ビンタされて『死ね!』って……」

「…………」


当たり前だ……と言いたくなった二階堂が、ビールを一口含み、ごくんと嚥下する。
目は白けきっていた。


「お前、前回は顎の弱い女にフェラ強要しようとして『私の事大切にしてないっ!』て、怒られたんだよな?」

「その前は玩具にハマってて、そればっかに頼ってたらキレられました」

「で、そのまた前は……」

「『そんなデカいの入れたら、アソコが緩くなる!』て言われて、セックスする前に別れました」

「で、そのまたまた前は?」

「『オシッコ飲ませて!』って言ったら『変態!』て言われて蹴られました」

「で、そのまたまたまた前は?」

「荒縄持って行って『着衣緊縛させて!』って言ったら、無言で帰られました」

「…………」


最早、何も言えない。
大倉の性癖に二階堂は頭を抱えそうになった。
そう。
この男、大倉は少々変わった性癖を持って居た。
男は多少なりとも変態だ。
そして、それに合わせられる女性も居る。
が、しかし、大倉はそう言った事が無理な相手にも強要する節があった。

大倉は、なまじ顔が良いだけにモテる。
休日外出すれば、直ぐに彼女が出来るほど、人当たりも良い。
しかし、彼は付き合って直ぐに性への相性問題が発生する事が多く。
結果、毎度こっぴどくフラれていた。


「麻縄じゃなく荒縄……んで着衣って。そのビミョーな気遣いと性癖っぷりが余計気持ちわりぃ……」

「ええ〜、そんなあ〜っ、先輩まで〜」

「つーか、お前な。俺、前回も言ったよな? そう言うアブノーマルなセックスは強要すんなって」

「この雰囲気ならイケるかも〜……って思ったんすよぉ〜」

「そんで毎度フラれてちゃあ、空気読めて無ぇのと同じだろ。まぁ、ちんこがデカイって理由で別れられたのだけは、残念だったな……としか言え無ぇけど」

「……うう゛〜」

「あー、泣くな、泣くな。酒でも飲んで忘れろ」


宥めすかせ、二階堂が立ち上がる。
彼は、キッチンにある冷蔵庫を開け、500ミリリットルのビール缶を、大倉に差し出した。


「せんぱぁい。すんません。俺、ビール飲め無いです。酎ハイとか無いですかー?」

「お前な男ならビールだろうが!」

「あー、今時それは男女差別ですー、アルハラですー、俺お酒は甘くないと無理なんです〜」

「はあー……、ったく」


何がアルハラだこの野郎、近頃の若い男はこれだから……などとぶつくさ言いつつ。
二階堂が、桃の酎ハイを大倉に渡す。
しかし、こんな事を言っているが二階堂も27歳と、未だ若かった。



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