【delicious×blood×charm】(デリシャス・ブラッド・チャーム)
□■第一夜■
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「え? 爺ちゃんが死んだ?」
仕事帰りの夜9時。
バイブに気付き、スマホを取った
成瀬河 朋
(
なるせがわ とも
)
は、祖父の死に、目を見開き固まった。
「あ、うん、うん」
電話の先では、朋の事を心配した兄の声が聞こえる。
兄の背後では、お経が唱えられていた。
「ああ、分かった、手離さない」
朋は首から掛けている御守りを、スーツの上からグッと気持ちを籠めて握り締めた。
この御守りは、寺の住職として能力を持つ祖父が、極上の血を持つ朋を護る為に心血を注いだモノだった。
彼は、祖父のお陰で今まで生きて来られた。
もし、祖父が居なければ、彼は今頃生きて居なかっただろう。
父も兄も彼自身も力はあるが、祖父のソレは桁外れの能力だった。
産まれる前。
つまりは、母の子宮の中に居る時から、極上の血は匂いを放つ。
その為、朋の母親は魔物に狙われていた。
寺には祖父やその弟子により、結界が張られており、魔物たちは入って来れない様になっていた。
故に朋の母親は、結界から出る事が出来ずに居た。
祖父は、朋が産まれるまで御守りに、自身の力を注ぎ続けた。
それは、朋が生きていく上で必要なモノだったからだ。
出産は、寺で行われた。
結界の外には、今か今かと魔物が集まっていた。
そんな中、朋は産まれた。
そして、祖父により直ぐに朋の首に御守りが掛けられた。
その御守りの効果たるや、凄まじく。
途端、魔物たちは寺から離れ、逃げ出した。
この御守りを持っている限り、悪意を持った魔物は朋に近寄れず、更に彼の匂いは遮断される。
彼は普通≠ノ過ごす事が出来るのだ。
が、これも祖父の力のお陰だった。
祖父は、朋が産まれてからも、御守りに力を注ぎ続けた。
朋が都会に出て、教師の仕事をしてからも、祖父は遠くから御守りを強化し続けていた。
そんな祖父が亡くなった。
それは、朋の命の危機と直結する。
兄の話では、これから徐々に御守りの効力が衰えて行くらしい。
その対策として、父と兄、弟子たちの力を御守りに送り続ける方法を取るそうなのだが。
それでも祖父の力には遠く及ばないらしく。
『下位や中位の魔物は、俺らの力で半年後も何とかなるが上位になると分からねぇ。お前、早くこっちに戻って来た方が良いぞ』
朋の事を心配した兄が、寺に戻って来る様に諭す。
寺には、強固な結界がある上、直接、御守りに力を入れる事が出来る。
そうすれば、朋の命は保証されるのだ。
『兎に角、吸血族は未だ良いが竜族や鬼には気を付けろ』
切迫詰まった兄の声に、朋はごくりと息を飲んだ。
自身の身が本当に危険なのだと悟った。
「……はあ」
通話を切った後、朋は大息を吐いた。
帰りたい……帰りたいのだが。
今は未だ帰れ無い。
何故なら、彼は高校教師で、今、担当している学年が三年生だからだ。
そして、今は11月。
進路や就職など、関わる学年であるのに、こんな中途半端な時期に辞める訳にはいかない。
生徒を裏切る事になる。
「後、4ヶ月……爺ちゃんの力が完全に切れんのが半年」
卒業まで4ヶ月。
祖父の力が完全に切れてしまうのが、半年。
兄たちの力を持ってしても、半年後には確実に上位に気付かれる。
下手をすれば、祖父の力が徐々に衰えて行く間に、バレてしまうかもしれない。
そして、己の退魔としての力では上位など到底倒せない。
4ヶ月というのは、かなりの賭けに近かった。
「くそっ、それでも俺は……」
朋は、生徒たちの卒業姿を見たかった。
三年生を受け持ったのが、今年初めてだったから尚更だ。
命は大切だが、辞める決心など簡単には付かない。
「はあ……」
溜め息しか出なかった。
そんな中、朋は気になる物体を見付けた。
「ん? 何だアレ?」
電柱の明かりにより、灯される黒い物体。
それは地面にべちゃりと落ちていた。
「コウモリ……?」
近付いてみれば、コウモリで未だ生きてはいるものの、弱っている様に見えた。
田舎育ちの朋には、コウモリ程度は怖く無い。
彼は、Gと言われる物体も素手で倒せるぐらいなのだから。
本来なら、放置するべきなのだろうが、何故か、気になって気になって仕方がない。
まるで、何かに呼ばれているかの様な……。
どうしても、このコウモリに朋は惹き付けられてしまった。
「……大丈夫、か? お前」
朋は手で掬う様に、コウモリを拾った。
そして一人暮らしをしているマンションへと帰ったのだった。
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