【delicious×blood×charm】(デリシャス・ブラッド・チャーム)

□■第一夜■
2ページ/11ページ



「え? 爺ちゃんが死んだ?」


仕事帰りの夜9時。
バイブに気付き、スマホを取った成瀬河 朋(なるせがわ とも)は、祖父の死に、目を見開き固まった。


「あ、うん、うん」


電話の先では、朋の事を心配した兄の声が聞こえる。
兄の背後では、お経が唱えられていた。


「ああ、分かった、手離さない」


朋は首から掛けている御守りを、スーツの上からグッと気持ちを籠めて握り締めた。

この御守りは、寺の住職として能力を持つ祖父が、極上の血を持つ朋を護る為に心血を注いだモノだった。
彼は、祖父のお陰で今まで生きて来られた。
もし、祖父が居なければ、彼は今頃生きて居なかっただろう。
父も兄も彼自身も力はあるが、祖父のソレは桁外れの能力だった。

産まれる前。
つまりは、母の子宮の中に居る時から、極上の血は匂いを放つ。
その為、朋の母親は魔物に狙われていた。
寺には祖父やその弟子により、結界が張られており、魔物たちは入って来れない様になっていた。
故に朋の母親は、結界から出る事が出来ずに居た。
祖父は、朋が産まれるまで御守りに、自身の力を注ぎ続けた。
それは、朋が生きていく上で必要なモノだったからだ。

出産は、寺で行われた。
結界の外には、今か今かと魔物が集まっていた。
そんな中、朋は産まれた。
そして、祖父により直ぐに朋の首に御守りが掛けられた。

その御守りの効果たるや、凄まじく。
途端、魔物たちは寺から離れ、逃げ出した。
この御守りを持っている限り、悪意を持った魔物は朋に近寄れず、更に彼の匂いは遮断される。
彼は普通≠ノ過ごす事が出来るのだ。
が、これも祖父の力のお陰だった。
祖父は、朋が産まれてからも、御守りに力を注ぎ続けた。
朋が都会に出て、教師の仕事をしてからも、祖父は遠くから御守りを強化し続けていた。

そんな祖父が亡くなった。
それは、朋の命の危機と直結する。
兄の話では、これから徐々に御守りの効力が衰えて行くらしい。
その対策として、父と兄、弟子たちの力を御守りに送り続ける方法を取るそうなのだが。
それでも祖父の力には遠く及ばないらしく。


『下位や中位の魔物は、俺らの力で半年後も何とかなるが上位になると分からねぇ。お前、早くこっちに戻って来た方が良いぞ』


朋の事を心配した兄が、寺に戻って来る様に諭す。
寺には、強固な結界がある上、直接、御守りに力を入れる事が出来る。
そうすれば、朋の命は保証されるのだ。


『兎に角、吸血族は未だ良いが竜族や鬼には気を付けろ』


切迫詰まった兄の声に、朋はごくりと息を飲んだ。
自身の身が本当に危険なのだと悟った。


「……はあ」


通話を切った後、朋は大息を吐いた。
帰りたい……帰りたいのだが。
今は未だ帰れ無い。
何故なら、彼は高校教師で、今、担当している学年が三年生だからだ。
そして、今は11月。
進路や就職など、関わる学年であるのに、こんな中途半端な時期に辞める訳にはいかない。
生徒を裏切る事になる。


「後、4ヶ月……爺ちゃんの力が完全に切れんのが半年」


卒業まで4ヶ月。
祖父の力が完全に切れてしまうのが、半年。
兄たちの力を持ってしても、半年後には確実に上位に気付かれる。
下手をすれば、祖父の力が徐々に衰えて行く間に、バレてしまうかもしれない。
そして、己の退魔としての力では上位など到底倒せない。
4ヶ月というのは、かなりの賭けに近かった。


「くそっ、それでも俺は……」


朋は、生徒たちの卒業姿を見たかった。
三年生を受け持ったのが、今年初めてだったから尚更だ。
命は大切だが、辞める決心など簡単には付かない。


「はあ……」


溜め息しか出なかった。
そんな中、朋は気になる物体を見付けた。


「ん? 何だアレ?」


電柱の明かりにより、灯される黒い物体。
それは地面にべちゃりと落ちていた。


「コウモリ……?」


近付いてみれば、コウモリで未だ生きてはいるものの、弱っている様に見えた。
田舎育ちの朋には、コウモリ程度は怖く無い。
彼は、Gと言われる物体も素手で倒せるぐらいなのだから。

本来なら、放置するべきなのだろうが、何故か、気になって気になって仕方がない。
まるで、何かに呼ばれているかの様な……。
どうしても、このコウモリに朋は惹き付けられてしまった。


「……大丈夫、か? お前」


朋は手で掬う様に、コウモリを拾った。
そして一人暮らしをしているマンションへと帰ったのだった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ