【delicious×blood×charm】(デリシャス・ブラッド・チャーム)

□■第二夜■
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「食べれんのか?」


コーヤの反応に朋が怪訝な表情を作り、確信を持って訊ねる。


「まあ、な」

「っ」


言いたくなさそうな返事に、朋の眉尻が跳ねた。
それなら、早く言えよ……と言いたげな表情になった。


「それなら、何か今すぐ作ってやる」


空腹時、血をあげなくて済むのであれば、それに越した事は無い。
机に手を置いた朋は立ち上がろうと膝を上げた。


「ちょっと待て」

「!」


が、しかし、コーヤに右腕を捕まれ、ピタッと動きを止めた。


「何だよ」


胡乱な目付きになった朋だが、内心は焦り、背中に冷や汗をかいていた。
何故なら己を見るコーヤの眸が、腹を空かせた獰猛な獣の様にギラッと光ったからだ。


「確かに、人間と同じ物を食おうと思えば食えるが、定期的に血を吸わねぇーと腹は減った儘だし、喉の渇きが酷くて無理だ」

「……つまり、今は血が欲しい……と?」

「ああ、そういう事だ」

「…………」


嘘を吐いている様には思えない。
コーヤが言っている事は本当の事なのだろう。
朋は、コーヤが人間の食べ物を食べられると言う事実を、何故隠していたのか何となく察した。
要するに、コーヤは今、血の事しか考えられなくなっていたのだ。
それが分かった朋は、立てていた膝を下ろし、胡座をかいた。


「正直に答えてくれ。吸血鬼として絶対に必要な血の量と、間隔は?」

「飲ませてくれんなら、お前の体の事も考えて2週間に1回50で良い」

「もし、それ以上欲しくなったら他を当たれるか?」

「……あ〜、まあ、同族は嫌だが、他の魔物に頭を下げりゃあ、何とかな。か、新しく知り合うか……だな」


生き倒れながらも、絶対に知り合いの他の魔物に頭を下げなかったコーヤ。
彼は相当嫌なのか、表情にそれが出ていた。
この調子では、また枯渇状態になっても我慢するだろう。
朋は、そんなコーヤの意地を犇々と感じ取っていたが、しかし、だからと言って、これ以上折れるつもりは、毛頭無く。
彼は、その件については深く追及するのを止め、コーヤを真剣な目で見詰めた。


「分かった。2週間に1回50をお前にやる。けど、それ以上は絶対無理だからな」

「お、良いのか?」

「ああ」


途端、目を輝かせたコーヤに、朋が小さく頷いた。
護ってもらうのだ……これぐらい力云々関係無く、与えなければ罰が当たる。


「で、力を上げる時は……だが」


こればかりは、未知な領域過ぎて分からない。
試して行く必要があった。


「どれぐらいで上がるのか、少量ずつ試していかないか?」


朋は、血、一滴で足りろ……と思いつつ、己の考えを口に出し、コーヤに提案した。


「ああ、それには賛成だ。正直言って、最強状態がずっと続いたら、俺の体自体保たないだろうからな」


この意見には、コーヤ自身、賛成だった様で、二人の利害が一致する形となった。


「……えっと、じゃあ、飲むか?」


切り出し方が分からず、朋がたどたどしく訊ねた。
流石にこれ以上、おあずけを食らわせるのも、申し訳無い気持ちに彼はなっていた。
それと共に、朋は倒れる程、空腹状態のコーヤが、食料とも言える人間を前にして、魔物の本性を現さない事に純粋に感動していた。
人間でさえ腹が減り過ぎた時、目の前にご馳走があれば、我を忘れ、ガッついてしまう。
にも拘わらず、コーヤはずっと長い間、我慢していた。
その心遣いが朋には何よりも、嬉しかった。


「あ……と、その前に痛いよな、やっぱ?」


噛まれると言う事はやはり痛いと言う事で。
その辺の事が気になった朋は、コーヤを見ながら質問した。


「ああ、その辺なら大丈夫だ。吸血鬼は、対象者が痛みを感じ無い成分を出せる様にもなってるからな。痛みは、あったとしても牙を立てられた一瞬だけだ」

「何かそれって、蚊みたいだな」


蚊は噛む時、麻酔に似た成分を出す。
それと同じ様な解釈を朋がすると、コーヤの眉間に皺が寄った。


「おいおい、崇高なる吸血鬼とあんな虫を一緒にすんな」

「あ、悪ぃ、悪ぃ」


やはり、コーヤも吸血鬼。
プライドがあるのだろう。
朋は素直に反省し、両の掌を合わせて謝罪した。



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