【delicious×blood×charm】(デリシャス・ブラッド・チャーム)

□■第二夜■
6ページ/14ページ



真紅の眸に、美麗な唇。
上気した頬。
余裕無く、荒くなった息。
恍惚の表情。
蠱惑的な、妖艶なるコーヤを見てしまった朋は、ごくりと生唾を飲んだ。
コーヤがこうなっている原因が自分にある。
その事に気付いた彼の心が、きゅうっと切なくなった。
コーヤに魅了された朋の口が、命令に従い、無意識に薄っすらと開いた。
おずおずと開かれて行く唇を見たコーヤは、それにすら煽られ、ゆっくりゆっくりと、己の唇を落とした。


「んっ、っ、んむっ、ん、んくっ、んぅ……っ」


ちゅっちゅくと啄む様なバードキス。
互いの唇の形や柔らかさを確かめる様なキスに、朋の思考が蕩ける。


「朋、今度は舌を出せ」


右手だけ朋の頬に添え、左手で朋の首筋を撫でたコーヤが、再び命令口調で言うと。


「ん、う……」


朋が、ゆっくりと濡れた赤い舌を出した。


「ん、んぅ……っむ、んんっ」


出された朋の舌をコーヤが絡めながら、朋の唇を食む。
咥内に感じる、血の味。
朋には、鉄の味にしか感じられなかったが、それでも嫌悪感は一切無かった。


「っ、はっ、信じらんねぇ」

「?」


朋の舌を味わったコーヤが口を離し、驚愕の声を発する。
彼の目は興奮から、ギラ付いていた。


「……ど、した?」


何か嫌な予感がするものの、気になって仕方が無い。
朋は潤みきった眸をコーヤに向け、辿々しく訊ねた。


「涎まで美味いとか有り得ねぇーな」

「…………は?」


唾液までと言われた朋は、何度も瞬き、口をぽかんと開けた。
何が何だか分からない。
コーヤは朋を見て、獲物を見付けた肉食獣の様に、口の端を舐めた。


「魔物の一部が自分の格を上げる為に、極上の血を持つ者の血肉を喰うってのは知ってたが……」

「…………」


何事か考えながら、コーヤが語り出す。
朋は、顔色を悪くしながらコーヤの言葉に耳を傾けた。


「って事は、もしかしたら、その者の全てが美味いって事かも知れねぇーな」

「……う、そ……だろ」


血だけでは無い。
極上の血を持つ者は、その全てが魔物にとっては美味。
真実に朋は瞠目し、唇を震わせた。


「んな顔すんな、俺は、お前をそういう意味で喰わねぇーよ」

「それは、分かってる」


眉を下げ、怯えた朋にコーヤが優しげな声を出すと、朋がふるふると、かぶりを横に振った。
朋には、吸血鬼であるコーヤが己を食さない事は分かっていた。
それに、祖父があんなに信用していたのだ。
コーヤがそれを裏切る様にも思えなかった。


「…………」


無言になった朋は、「はあ」と喉の奥で熱くなった息を吐き出した。
事実は事実として受け止め無くてはならない。
彼の中で魔物に対する警戒心が又しても高まった。
コーヤは目を伏せた朋を見ながら、己の唇を朋の唇近くまで持って行き、開口した。


「ま、けど、こういう意味では食うけどな」

「ッ!!」


含みのある笑みを向けられた朋は、顔を梅の花の様に赤くし、コーヤの顎を右手で掴んで押した。


「う゛ッ!」

「ふー、ふー、っ、く、っ、離れろっ」


朋の手により、強制的に顎が反ってしまったコーヤは、うぐっとなった儘、目線を朋の方に向けた。
抵抗を露わにした朋の眉間には、皺が寄っていた。
朋の催淫状態は、まだまだ続いていた。
が、しかし、会話をした事で彼は、少し余裕を取り戻していた。


「ったく、こんな奴初めてだぜ、流石ジジィの孫だな」


コーヤが今まで相手にして来た人間や魔物の女は、直ぐにコーヤに身を任せ、陥落していた。
それは、コーヤが気高き吸血鬼である事と見目が麗しい事も関係している。
コーヤは、人間の女と交わる時、キスマークを付ける振りをして、軽く歯で胸元を噛み、血を啜っていた。
その際、彼は牙を出していなければ、目の色も変えていない。
催淫効果のある成分は、出す時もあれば出さない時もあったが、出さずとも、彼女たちは、簡単に落ちていた。
が、今、目前の人物はというと、どうだ。
彼は、催淫効果に意識を持っていかれそうになりながらも、未だ抵抗を続けている。
本来なら、もうとっくに堕ちている筈なのに。
現に、彼の熱棒はスラックスの上から主張を示し、溢れた透明な蜜により、衣服をじんわりと濡らしていた。
苦しく、辛い筈なのだ。
なのに、陥落しない。
キスの時、一瞬堕ちそうになった彼だったが、少しの会話だけで正気に戻っている。
その事に、コーヤは感嘆の声を出し、目を細め、朋の両手首を掴み、絨毯にそれを押し倒した。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ