【短文】
□【幼馴染との甘くない再会】
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「お母さんたちは未だ未だ積もる話があるんだから」
「え、ちょっ、母さんっ?!」
二人共に廊下に押し出され、堅慎が慌てる。
「あんたも威武くんとお話したいんじゃない? 帰って来るのめちゃくちゃ楽しみにしてたじゃない」
「た、確かに楽しみにしてたけど」
「なら、部屋で話しなさいな」
「や、それは……」
堅慎は無理だと言おうとしたが、止めた。威武が傷付くかもしれないと思ったからだ。
「はいはい。兎に角二人共二階に行きなさい。昼御飯は持ってってあげるから」
「ちょ、母さんっ!」
ぱたんと扉が閉まる。完全に追い出された。
堅慎は「はあ」と溜め息を吐き、後頭部を掻いた。
「……えっと威武、二階に来るか?」
断れよ、と思いながら堅慎がちらっと威武を見る。
「そうだな。邪魔するか」
「っ、」
正かの返答だった。堅慎の頬が引き攣れた。
「何だ、その反応。来て欲しくねーのか?」
「や、えっと久しぶり過ぎて距離感が掴めないと言うか、別人と言うか」
「だから何だ?」
「だから、どう接したら良いか分かんなくて。それにお前さっきから苛々してるし」
「黒歴史ほじくり返されて頭に来ただけだ」
「なーんだ。恥ずかしかっただけか」
「あ゛?」
「っ、そ、そういう顔すんなよっ!」
威武の不機嫌な様相はかなりの迫力があった。堅慎は「ひぃ!」と言い、怖がった。
「何だ、怯えてんのか?」
「怯えてないし」
威武が喋りながらじりじりと寄って来る。堅慎は言葉とは裏腹に後退った。
「んな事言って、腰引けてるじゃねーか」
「っ、もうやだ。こんなの俺の知ってる威武じゃない」
とうとう壁際まで追い詰められた堅慎。俯き、拳を握り締める。
「五年も経てば、変わるに決まってんだろ」
「五年前の威武はこーんなちっちゃくて、可愛いかったのに」
堅慎が言いながら、下げていた手を当時の威武の身長まで上げる。
「ここも変わってんぞ、見るか?」
すると、威武が上がった堅慎の手を掴み、自身の股関に近付けた。
「馬鹿っ! 見るかっ!」
堅慎の顔が怒りと羞恥から真っ赤になった。咄嗟に彼は腕を引き、手を振り解いた。
「もういい。お前家帰れ!」
どんっ!
怒りの儘、堅慎が威武の胸元を押す。しかし、残念ながら威武はびくともしなかった。
「っ、どんだけ鍛えてんだよ」
堅慎だって男だ。身長は低くともそこそこ力だってある。しかももう少しで成人。
なのに、二歳下の男に全く力が通用しなかった。
堅慎は現実にショックを受けた。もうあの威武は居ないのだと悟った。
「俺が弱かったせいでお前が傷付いたからだろ」
「……は?」
威武がまた堅慎のこめかみにある傷に触れた。堅慎は言動を一瞬理解出来ず固まった。
「まぁ、今日は面見れたから帰ってやるよ」
「は? え? ちょっ!」
堅慎からあっさりと離れた威武が踵を返し、玄関に向かう。
堅慎ははっと我に返り、威武の服の裾を掴んだ。
「この傷はお前のせいじゃないからなっ!」
「…………」
「威武?」
「じゃあな」
「い、」
ぱたんと閉まる玄関扉。
戸惑っている間に、威武が去った。
堅慎は名前を呼ぼうとした儘、その場に立ち尽くした。
──え、あいつ、もしかしてずっと自分を責めてんのか? 弱かったから俺が傷を負ったって思ってそれで体鍛えたのか?
「健気かよっ!」
思わず、叫ぶ堅慎。根っこの部分はあの時の威武と変わっていないと心が弾む。そうして、後を追いかけた。
「威武! 閉めるな待て!」
隣の家へ向かうと丁度玄関扉が閉まるところだった。堅慎は慌て、閉まらないよう扉に手を掛けた。
「何だ?」
行動を止められ、威武が訝しげな表情になる。
「あの時も言ったが、この傷は男の勲章だから! 威武を守った勲章だから」
「勲章? はっ、違うだろ。俺が弱くていじめられてたから付いた傷だろ」
「あーもう何でそんな頭でっかちなんだ!」
「うるせぇ」
「うるさくなんか──っ、んう?!」
堅慎が食って掛かろうとしたところで、何かにより口を塞がれた。
堅慎は何が起きたのか分からず、瞬きを繰り返した。すると威武と目が合った。
「んっ、んっ、んん──ッ!」
キスされた。堅慎は漸く気付いた。
途端、威武の胸元をどんどんと叩いた。無駄な抵抗だった。歯の間からぬるっと威武の舌が入り、力が抜けた。
「あむっ、んっ、んうーっ!」
──ヤバい。俺キスに弱いのに!
耳に響く、互いの唾液が絡む水音。
舌を引き摺り出され食まれた堅慎の身がびくんっと震える。
後頭部がじんわりと痺れ、瞳が蕩けたように潤み、腰が抜けた。
「んむっ、んっ、ふっ」
威武の舌は横に広く厚みがあった。その舌により、歯列や頬裏を舐められるともう駄目だった。されるが儘となり、思考が飛んだ。
「チッ! 何で抵抗しねーんだ」
威武が唐突に、唇を離す。
「ぷはっ、はっ、はっ、俺キス弱いから」
解放された堅慎が息を乱しながら顔を上げ、言い訳がましく言う。
「っ、あーくそっ!」
涙に濡れた瞳とキスに弱いという台詞。
黙らせる為にしただけなのに。
威武は逆に反撃を食らった気分になった。
「犯されたくねーなら、とっとと失せろ」
堅慎の胸倉を掴んだ威武が耳元で囁いた後、手をぱっと離し、追いやる。そうして扉をぱたんと閉めた。
「は?」
がちゃんと鍵が締まる音。完全に追い出された。堅慎は起きた事に思考が追い付かず、固まった。
「……何なんだ、あいつ」
頭が漸く回り始めた。堅慎は指先を自身の唇に持って行き、ぷにっと摘まんだ。
「つーか、キス上手過ぎだろ」
縦横無尽に動く厚みのある舌にまんまと翻弄された。舌を絡められ、吸われると頭の奥がじんっとなった。男同士だと言う事を忘れた。
堅慎は威武にされたキスを思い出し、物欲しそうに唇をぷにぷにと触った。
「絶対女泣かせまくってんな、あいつ」
今の年齢であの舌技となると、女性経験が豊富なのではないだろうか。そう考えた堅慎の顔が、むっとなる。
「何か、腹立つな」
嫉妬なのか、男として敗けを悟ったからなのか、あの子が?という親心からなのか。
理由は分からないが、無性に癪に触った。
「……帰るか」
これ以上しつこくすると、寝た子を起こす事になる。
渋々とだが堅慎は身を引いた。自宅に帰り、自室に戻った。
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