【短文】

□【幼馴染との甘くない再会】
3ページ/10ページ





堅慎はクリスマスシーズンに、こぞってイルミネーションを飾る、洋風の家が建ち並ぶ洒落た住宅地に住んでいた。
住宅地の中心部には広い公園があり、小学校に通う子どもたちはよく此処に遊びに来ていた。

新築の家には堅慎が二歳の時。
威武が0歳の時に、ほぼ同時に二家族が住み始めた。
威武の母親──芽衣子は男性並みに稼ぐキャリアウーマンでシングルマザーだった。
それもあってか、専業主婦である堅慎の母親──結愛が時折威武を預かりみていた。
入居後一ヶ月で、芽衣子と結愛は同郷の昔馴染み?と聞かれる程、意気投合し仲良くなった。波長が合ったのだろう。
それはもう結愛の夫が嫉妬する程だった。

威武は生まれた時、小さかった。四十週お腹に居たのに2500gも無かった。小学生になっても小さい儘だった。
歩き始めるのも喋り始めるのも遅く、月齢表に書かれている事も基準通りに出来ない。
芽衣子は全て自分のせいだと自分を責めた。威武に申し訳無いと結愛に泣きながら話をした。結愛はそんな芽衣子を支え続けた。

堅慎は生まれたばかりの威武を見た時、あまりの可愛さにきゃっきゃっと喜んだ。後に妹や弟が生まれてもこの時以上の感動を得る事は無かった。
物心付いた頃には結愛に言われた訳でも無いのに、威武にべったりになり守る様になった。
だから、小学四年生になった威武がいじめられていると知った時は怒りが湧いた。しかも、威武は馬鹿げた理由でいじめられていた。
いじめ主犯格の好きな子が威武の事を好き。
ただそれだけの理由でいじめられるなんて、理不尽にも程があるだろう。
確かに威武は美人薄命という言葉が似合う程、色白で身体が弱かった。
よく風邪を引き熱を出し学校を欠席していた。
その上、容姿は上の上。齢10にして漂う儚げさと美麗さにどれだけの人間が魅了された事か。
まあ堅慎もその一部なのだが──。

堅慎のこめかみの傷はその時のいじめが原因で出来た。
ある日の放課後の話だ。
住宅地にある公園で、堅慎が五人から一方的に詰られ殴られている威武を見掛けた。
詰りの言葉は、「学校来んな」「女みてぇ」「うざっ」「死ね」といった幼稚なものだったが堅慎は許せなかった。
全力で走り、彼らを殴りとばした。そこからは五対一の大乱闘。
学年が上でも多勢に無勢である。だが堅慎は負けなかった。
今の体格と変わらなかったからだ。六年生当時で160センチ弱。力も強かった事から、一人一人と伸していった。
すると、到頭キレた主犯格が大きめの石を持ち、堅慎に投げつけた。
石は堅慎の左のこめかみに当たった。堅慎は一瞬蹌踉めいたが踏ん張り、主犯格を睨み付けた。
片方の目を瞑り、こめかみからだらだらと血を流す堅慎に主犯格は号泣した。
ついで、他の四人も顔を青褪めさせ泣き崩れた。
泣いたのは、とんでもない事をしたと自覚し、怖くなったからだろう。
ぴーぴー泣く子どもたちと、目の近くから血を流す子どもと、身体を震わせ顔面蒼白になっている子ども。
流石にこれは傍観していられないと思ったのか、大人たちが駆け寄って来た。
大人たちの対応は迅速だった。
学校や各家庭に連絡を付け、近所の病院に堅慎を連れて行った。
検査した結果、堅慎の目や脳は異常無しと診断された。
結果を聞いた時、皆が皆胸を撫で下ろした。
威武をいじめていた子どもたちは、この時泣きながら謝り、全てを白状した。
子どもたちの両親は威武と芽衣子や、堅慎とその両親に平謝り状態となった。我が子が堅慎に殴られたと怒る者は誰一人として居なかった。

後日行われた学校の会議室を使っての話し合いで、堅慎の治療費は主犯格の両親が払う事と、いじめは二度とさせないという契約が成された。
威武側としては遺恨が消えた訳では無いが、子どもたちの為だと溜飲を下げた。
この事は相手側家族たちにも包み隠さず告げた。
いじめっこたちの親は深々と頭を下げ何度も何度も謝罪した。

いじめっこたちは話し合い直後親に「今度いじめをしたら転校する事になる」と聞かされた。彼らは「嫌だ。転校したくない」と泣き喚き、震え上がった。
転校というワードは小学四年生の心にかなりの効果を齎した。
いじめっ子たちは威武に近付かなくなり、いじめを止めた。
これにて、全てが片付き決着した。

「堅慎くんと結婚する」
威武がそう言い出したのは事件後、五日経っての事だった。
威武はあの瞬間、身体を震わせるだけで何も出来ずに居た。
我に返り涙を流しながら、堅慎に駆け寄るもてきぱきと動いていたのは大人たち。
彼自身はただただ色白い肌を益々白くさせながら寄り添い「堅慎くん、ごめんねごめんね」「痛いよね、僕のせいでごめんね」と泣いて謝る事しか出来なかった。
そこから彼は五日間熱を出し寝込んだ。
自分のせいで大好きな堅慎が傷付いた。消えない傷を付けられた。五日間苦しんだ後、彼は自分の中で初めて殺意というモノを感じた。そうして弱い自身を恥じた。

男同士で結婚出来ない事なんぞ周囲に言われなくとも知っていた。それでも威武は「堅慎くんと結婚する」と毎日毎日言った。それは威武が転校するまで続いた。

事件から半年後、威武は転校した。芽衣子の栄転が決まったからだ。
此処から百キロ離れた土地に引っ越す。それを知った時、威武は泣いて「転校したくない」「堅慎くんと一緒に居る」と懇願したが、願いは叶えられなかった。
引っ越す時、威武は「絶対帰って来るから、その時は結婚しようね」と堅慎に告げた。
堅慎の答えは「男同士じゃ出来ないぞ」と何時も通りの返事だったが、彼もまた泣いていた。

威武は泣く堅慎を見て、無意識に堅慎の口に自身の口を押し当てた。これには芽衣子、結愛とその夫も驚きを隠せなかった。
唇が離れた時、威武の顔は真っ赤だった。堅慎は固まっていた。
あわあわとなった威武が車に乗り込み「バイバイ、またね」と言うと堅慎も「バイバイ、またね」と返事をした。こうして二人は離れ離れとなった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ