【短文】

□【幼馴染との甘くない再会】
4ページ/10ページ





「ぶっちゃけ嫌じゃないんだよなぁ」


過去と今起きた事を想起した堅慎が、自室のベッドに寝そべり独り言つ。

過去もそうだったが、今日起きた事も全く嫌で無かった。それよりも頭がじんわりする程気持ち悦かった。
正直なところ、今回より過去の方がもっと感情がごちゃごちゃだった。キスの後、色白の顔を真っ赤にさせながら、ちらっと涙目を向けて来た威武に、どきっとしたぐらいだ。
あの時も今もおかしいとは分かっていたが、嫌で無いのだから仕方ない。開き直るしかなかった。


「まあ、うん。あいつに隠してる事もあるしな」


堅慎が威武に隠している事。
それは威武が物心付く前から、それこそ0歳の時からちゅっちゅっと唇を奪い続けていた事だ。
流石に威武が小学生になる前には駄目な事だと気付き止めたが、それまでは毎日の様に口付けていた。威武が何の疑問も持たず、受け入れる程常態化していた。
今考えると犯罪じゃないか?と思うが、まあ堅慎が八歳までの話なのだから、セーフであろう。
威武の事が可愛くて愛しくて堪らなかった──というのが堅慎なりの理由だが、今考えると理由にならない理由である。

今回の事は潜在的な洗脳のせいかもしれない。威武の中で堅慎にだけ挨拶の様にキスをするものだと思い込んでいる節すらある。
つまり、ハードルが下がり抵抗感が無くなっていると考えられる。刷り込みとは何とも怖いものだ。


「この儘だとヤバいなぁ」


幼い時は愛しさ故の行為でも、今では性的な事に直結する。ディープキスとなると尚更だ。
それは流石によろしくない。
これは全てを暴露し、諭さなくてはならない。
堅慎は覚悟を決め、威武に謝ろうと決めた。


「はぁ〜。それにしてもあいつ、かなりの別人だったな。しかもめちゃくちゃ生意気に育ってるし」


久しぶりに会った幼馴染の変貌っぷりに堅慎が嘆息する。
再会した威武は筋肉質な体に、野性的な男らしい顔をしていた。所謂ワイルド系イケメンというやつだ。しかも身長は190センチ越え。
感情をあまり表に出さないところは変わっていないが、口がかなり悪くなっている。しかも何か偉そうな態度。これは確実と言って良い程、小学生時代の同級生は気付かないだろう。


「頭も良いらしいし、どうなってんだ」


結愛曰く、編入先の高校は偏差値の高い有名校らしい。思い出した堅慎の顔が顰めっ面になる。
守ると決めた対象が自分より遥か上に行き、天から二物も三物も与えられているのだから、複雑な心境なのだろう。
人として神に愛され過ぎだ、贔屓だと妬むのも仕方の無い事と言える。


「はぁ〜、妬み嫉みとかみっともね」


堅慎は頭を振った。こんな事沸々と考えても滅入るだけだ。正直言ってダサ過ぎる。今は純粋に再会を喜ぼう。そう思い、上体を起こし「母さん、飯〜」と言いながらリビングに向かった。







一週間後。
バリキャリの威武の母親が出張との事で、威武を心配した結愛が堅慎に見に行くよう命令した。
堅慎は芽衣子から威武が大抵の家事は出来ると聞いていたのに見に行く必要はあるのかと、ぶつぶつ文句を言いながら隣の家へ向かった。


「威武〜、生きてるかー? 開けろ〜」


堅慎が玄関前で声を掛ける。扉の取っ手をがちゃがちゃと動かすと、鍵が開いた。


「何だ?」
「俺の母さんがお前の事心配だから様子を見に行けって」
「問題無い」
「晩飯は?」


時間は19時。夕飯は食べているのかと気になった堅慎が尋ねる。


「適当に作って食った」


すると威武が面倒臭そうに答えた。


「ふーん」
「……他に何か用でもあんのか?」
「や、別に」
「……ならとっとと帰れよ」


様子見なら会話が終わった時点で帰るべきなのだが。
堅慎が何時まで経っても踵を返さない。威武は何なんだと思いながら、怠そうに扉を閉めようとした。


「ちょい、待て!」
「あ゛? だから何なんだ?」


のだが、堅慎に扉を掴まれ阻止された。


「一週間前の事とか何か俺に言う事無いのかよ?」


堅慎は意を決し言った。自身が威武にした過去の所業を暴露する気だった。


「別に。うるさい口を黙らせる為にやっただけだろ。何か文句でもあんのか?」
「あると言ったら?」
「ファーストキスの責任取れって?」
「初めてはとっくに済んでる」
「っ、」


堅慎の返答に威武は衝撃を受けた。頭を殴られた様な気さえし、眩暈を覚えた。


「ん? 威武? どした?」
「何でもねぇ」


威武の声が心無しか震えている様に思えるのは気のせいか。


「話は終わりだ。帰れ」
「やだ」
「帰れっつーてんだろ」


もやもやとイライラで頭がおかしくなりそうだった。
威武は淡々とだが口悪く言うと、中に入ろうとする堅慎を押し出した。


「やだって言ってんだろ。帰らないからな」


堅慎は押し出されても食らいついた。ばっと体勢を整え、強引に扉を開け中に入った。


「へへっ。入ってやったぞ」


扉をぱたんと閉め、後ろに居る威武を見ようと振り向く。


「チッ!」


威武が大きな舌打ちをする。前髪をくしゃっと手で潰し、堅慎をひと睨みした。


「また襲われてぇーのかよ」
「キスぐらいなら、別に」
「…………は?」


思わぬ答えに威武の反応が遅れる。


「お前ならキスぐらい良いって言ってんだけど」
「な、に言って……」
「威武さ、覚えてないのか?」
「何を?」
「俺ら昔キスした事あんだけど。覚えてないのか?」
「は?」
「あ、やっぱ覚えてないのか」
「引っ越しの時の話か? 俺からしたが……」
「その事じゃないんだよなぁ」
「どういう事だ」


引っ越しの時で無いのなら、何時の事だというのだ。威武の眉間に皺が寄った。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ