【短文】
□【幼馴染との甘くない再会】
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「……怒らない?」
「内容次第だ」
「小さな子どもがした事だと思って許して欲しいんだけど」
「で?」
「う゛」
早く話せと言わんばかりの威武に、堅慎が言葉を詰まらせる。悪い事をした自覚があるだけに、目が泳いだ。
「お前匂わせるだけで、言わねぇーつもりか?」
「や、言う」
「なら早く言え」
「分かった言う。俺も男だ。覚悟を決めた」
堅慎は深呼吸をした。そして、ええいままよとばかりに口を開いた。
「お前が生まれた時から物心付く頃まで毎日、唇奪ってました。ごめんなさいっ!」
「…………は?」
「あ、やっぱ覚えてなかったか」
威武の見事なきょとん顔に、堅慎が苦笑いを浮かべる。
「全然覚えてねぇ」
「お前が小学生になるまでに止めたから」
「そういう話か?」
「う゛、ごめん」
「俺が0歳の時、お前二歳だろ。覚えてんのかよ」
「や、覚えてねーけど気付いた時には常態化してたから、多分二歳の時からしてたんだと思う」
「つまり、さっき言ったファーストキスが済んでるってのは?」
「相手はお前って事」
「…………はあ」
威武から溜め息が漏れる。ついで仕様も無いと言いたげな表情になった。
「ガキん時のキスはファーストキスに入らねーだろ」
「物心付く前ならそうかもしれないけど、止めた時俺は小学生になってたからなぁ」
「逆に何で止めた?」
「や、流石にまずいと思って」
「…………」
「やっぱ怒った?」
威武が目を瞑り、俯いた。堅慎は怒ったと思い、おずおずと訊いた。
「別に」
「そっか。良かった」
堅慎は胸を撫で下ろした。「ほぅ」と息を吐いた。
「理由は?」
「へ?」
「毎日やってた理由とか覚えてんのか?」
「可愛かったから」
「何だ、それ」
「だってお前可愛かったじゃん」
拳を振って力説する堅慎。心無しか鼻息も荒くなっている。
「今は?」
「へ?」
同意を求めたのに、流された。堅慎は質問の意味が分からず、ぽけっとなった。
「今の俺はどうだって聞いてんだ」
「可愛くなくなったな」
成る程そういう事かと、意味を理解した堅慎が躊躇いも無く、ずばっと言う。
「でも格好良くはなっただろ?」
すると威武が堅慎を見下ろし、勝ち誇った様に言った。
「自分で言うなっ」
「お前は小さいよな。小学生の時から殆んど伸び無かっただろ?」
「うぐぐっ」
言い返す言葉も無い。堅慎が拳を握り締め、歯を噛み締める。
「くそっ! はーらーたーつー!」
「怒り方が小学生だな」
「むかっ! もういい、帰る!」
年上の威厳など無い。揶揄られ、ぷりぷりと起こった堅慎が玄関扉を開ける。
「あ、そうだ。何度も言うがこの傷はお前のせいじゃないからな。じゃあな!」
堅慎は言ってやろうと思っていた言葉を吐いた。そして威武の反論など聞かないとばかりに、怒り肩の状態でどすどすと去った。
「何だ、あれ」
威武は呆気に取られた。あれが大学生の言動だというのか。
「くくっ、やっぱ怒り方がガキだな」
腹を押さえ、威武が笑う。目が優しく細められた。
*
「な、なななななっ!」
大学の後期授業が始まって二週間が経った。
堅慎はこの日、ゼミ仲間とファミレスで晩御飯を食べてから帰宅した。
自室に入り、鞄を机に置いたまでは良かった。ただ、カーテンを開けた事は悪手だった。
「信じらんない事すんな、あいつ!」
顔を真っ赤にしてカーテンを閉める。
堅慎が目にしたシーン。それは威武が女子高生と性行為しているシーンだった。
しかも、威武は見られても平気な顔をしていた。
対面座位で制服姿の女子高生を穿ちながら、顔を堅慎に向け、にっと笑った。
「あいつ、絶対態とだっ!」
性行為するなら、通常カーテンを閉めるのでは無いか。なのに、威武はカーテンを開けていた。
堅慎は態とだと確信し、憤慨した。絶対に明日注意してやろうと心に決めた。
*
「威武、お前昨日の事だけどなっ!」
翌日の朝。
大学に行こうと外に出たら、威武と鉢合わせた。
堅慎は丁度良かったとばかりに威武に近付いた。
「昨日は悪かったな」
のだが、威武に先手を打たれた。
「は?」
文句と年上として注意をしようと思っていたのに。
頭を下げられた。堅慎は威武の言動に戸惑い、固まった。
「童貞には刺激が強過ぎただろ?」
ぴたっと止まっている堅慎に向かって、威武が挑発的な笑みを浮かべる。
「は? 童貞? 誰が?」
すると、我に返った堅慎の表情がすんっとなった。
「お前」
「な訳無いだろ。疾うに卒業してるし」
「……は?」
今度は威武が固まった。
「てか、あれは俺に対する悪ふざけか? 童貞だと思って揶揄うつもりだったのなら止めろ。後、見られる女の子の身にもなれ、女の子は大切にしろっ、以上!」
堅慎は威武の顔が無になっている事に気付かなかった。指を差し、言うだけ言って「じゃあな」と言い踵を返した。
「童貞じゃねぇだと……」
威武の耳に届いていなかった堅慎の話。威武はぽつりと呟き、顔を顰めた。
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