【短文】

□【幼馴染との甘くない再会】
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「話がある」


表に出て帰宅を待っていた威武が、堅慎に声を掛ける。


「俺は無い」


堅慎はちらっとだけ威武に目を遣った。が、直ぐに逸らし、家に入ろうとした。


「こっちに来い」


威武の声が低くなる。堅慎の素っ気ない態度に焦燥感を得たからだ。
威武は堅慎の手首を掴み、引っ張った。そして「何なんだ、離せよっ!」と言う堅慎を無視し、自宅に強引に連れ込んだ。


「いっ!」


玄関の壁に軽くだが打つかった堅慎の体。
彼は文句を言おうと上を向いた。
のだが、壁ドンされた事で一瞬怯んだ。


「ちょっ、何なんだ」


──体格差、エグ過ぎんだろっ。


上から見下ろす威武によって、堅慎の顔に影が出来た。
堅慎は壁の様な圧に戸惑い、目を泳がせた。


「童貞卒業したのは何時だ?」
「は?」


唐突過ぎる質問に、堅慎の頭の中に疑問符が湧く。


「お前はどんな風に女を抱くんだ?」
「はい?」


堅慎は間の抜けた声を出した。意味が分からないとばかりに首を傾げた。


「えっと、お前が待ち伏せしてた理由って?」


待ち伏せの理由がこの質問の為かと思うと頭を捻ざるを得ない。


「質問に答えろ」
「何で?」
「チッ!」


威武はこの日、苛々し通しだった。世界は灰色で何も面白くなかった。友人の声なんぞ耳に入らず、授業中ずっと外を見ていた。
全てが全て、堅慎のせいだった。経験済みな堅慎が許せなかった。抱かれた女に嫉妬した。
威武はそれ程、堅慎の事が好きだった。好きで大好きで堪らなかった。


「お前のこの粗末なモンで女満足させられんのか?」


嫉妬や憤怒の気持ちを抱いた儘、威武が堅慎の股関に手をやり睾丸ごと陰茎を掴む。


「おあっ!?」


堅慎は突飛な出来事に身体をぴょんっと浮かせた。


「威武、ふざけて……んむっ?!」


堅慎が怒ろうとしたところで威武により口を塞がれる。


「ふっ、んうっ、んうっ!」


股関まで撫でられては、形無しだった。
堅慎は解放されようと暴れたが全て簡単に往なされた。


「口、もっと開けろ」


そう言った威武が堅慎の口に親指を突っ込み、強引に開かせる。そうして舌を捩じ込み、口内を無遠慮に荒らした。


「んぶっ、んっ、ふっ!」


ぴちゃ、くちゅ、れろ。
威武の柔らかく太い舌が堅慎の舌に絡み付く。
ぞくぞくッとした感覚に、堅慎の腰が抜けた。身体に力が入らなくなり、されるが儘となった。


「ぷはっ、あっ、もっ、威武っ!」


堅慎の脚がぷるぷると震える。腰も抜けていたので、威武が片手で支える状態となっていた。


「あっ、もうっ、無理っ、無理ぃ!」


堅慎の陰茎は何時の間にか外気に晒され、威武に扱かれていた。
堅慎は押し寄せる悦楽の波に抗い、飲み込まれまいとしていた。


「もうっ、駄目だってぇ、もっ、無理ぃ」


堅慎の視界が滲み、がくがくと腰が震える。限界が近いのか、顎が反った。


「イ、クっ!」


堅慎が無意識に威武の身を抱き締める。


「チッ! くそっ!」


瞬間──威武の目に飛び込んで来た堅慎の傷痕。
威武は苦々しく表情を歪ませた。そして実にあっさりと行為を止めた。


「…………へ?」


ぴたっと止まった行為に、堅慎がきょとんとなる。
鳩が豆鉄砲を食らった様な表情とはこの事を言うのだろう。


「い、ぶ?」


意味が分からないながらも、堅慎が威武の名を呼ぶ。
上を向き顔を覗き込むと辛そうな表情の威武と目が合った。


「…………」

「……威武?」


傷痕を優しく撫でる威武の親指。
ついで舌が傷痕に触れる。
堅慎は抵抗せずにいた。が、様子のおかしい威武を放っておけず、威武の名を強めに呼んだ。


「っ、」


我に返った威武が弾かれた様に顔を上げる。


「威武、どうした?」
「…………れ」
「ん?」
「帰れって言ってんだ」
「はああ?!」
「いいから帰れっ!」
「ふざけんなっ!」


ここまで手を出して、帰れとは何事だ。しかも、イク間際だったというのに。完全に不完全燃焼だ。
堅慎は腹を立て、目くじらを立てた。


「何なんだよ、お前。昨日から揶揄って何が面白いんだ、ふざけんなっ!」


怒声を上げ、堅慎が威武の身体をどんっと押す。
威武は微動だにしなかったが、堅慎から離れた。


「威武の馬鹿ばかバーカ!」


壁から離れた堅慎が玄関扉に向かい、子どもの様な事を言った。
行為の余韻なのか、それとも怒りからなのか、堅慎は肩で息をしていた。


「……くそっ」


ぱたんと扉が閉まった。
威武は扉を見詰め悪態を吐くと、壁に寄り掛かって、ずるずると腰を下ろした。


「もうどうしたら良いのか、分からねぇ」


あそこまでする気は更々無かった。するとしてもキス程度に収める気だった。なのに、顔を見たら駄目だった。質問している内に嫉妬心が爆発して、暴走した。

昨日の性行為見せ付けは、距離を置く為だった。この儘だと気持ちが爆発しそうだったからだ。
威武は堅慎と再会して以降、性欲を抑えられなくなっていた。堅慎を見る度、犯したい衝動に駆られていた。
だから、言い寄る沢山の群れの中から後腐れの無い遊んでいる女を選び、事に及んだ。
カーテンが開いた時、威武は内心よしっと思った。が、堅慎の真っ赤になった顔を見た瞬間、理性がぶっ飛んだ。堅慎を抱いている様な錯覚に陥った。気付けば、女が快楽により失神するまで犯していた。
女を帰した後、威武は頭を抱えた。こんな情欲、無垢で優しい堅慎に向ける訳にはいかない。
やはり距離を置こう。そう決めた。
なのに、それなのに──。
翌日の今日、堅慎が避けるどころが近付いて来た。しかも、童貞ではない宣言。
頭がおかしくなりそうだった。それと同時に無垢で無いなら──と、悪魔が心の中で囁いた。
威武は直ぐに頭を振って、考えを払拭した。
距離を置こうと思っているだけで、嫌われるつもりなど無いのだ。そう思っている筈なのだ。なのに、奥底に居る悪い部分が、距離を置くならその前に良い夢を見ても良いだろうと、犯して嫌われろと唆して来る。

善の部分と悪の部分に、威武の心は翻弄された。結果嫉妬で暴走する程、コントロールが効かなくなった。
だからこそ、堅慎の傷痕には救われた。罪悪感により行為を止める事が出来たからだ。そうでないと、確実に犯していた。


「傷付けたい訳じゃねぇーのに」


この儘では何時か大好きな堅慎を傷付ける。それ程、心に余裕が無い。
威武はやはり距離を取ろうと決めた。今度は回りくどく嫌われる様に持って行くのでは無く、物理的に関わらない様にしようと決めた。



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