黄昏の鎮魂歌

□死地からの逃走
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幼い頃、流行り病に因り両親を亡くした
彩花は兵士になる事を決意した。
3年間に渡る地獄のような訓練を終えて
首席で卒業し、彼女は調査兵団へ入団。
例年と同じく調査兵団を希望した者は、
一握り程度。
他の上位十名は全員が憲兵団を希望し、
殆どの同期が駐屯兵団を選んだ。
そして幾度目かの壁外調査、熟練の先輩
兵士達は陣形の両翼で新兵達を先導。
しかし索敵陣形を展開した後、誰も予想
出来ない事態が起こった。
彩花が居た左翼から多数の巨人が接近、
彼女の所属班は物の数分で壊滅した。
次々と食われて行く今際の仲間達、主を
失った馬達は逃げて行くだけ。
ブレードを抜こうとした彩花は目を瞑り
手綱を握り締め、悲鳴に背を向けて愛馬
フローラを走らせる。

「嫌だ、死にたくない!!」

「やだ、やだよ! 御母さん!!」

「助けてェェェ!!!」

「御免なさい、御免なさい!!
もうしません…! 許して下さい!」

「辞めて下さい! 御願いします!!」

バキバキと骨肉を噛み砕く音、涙と共に
滝の如く流れ落ちる赤黒い鮮血。
全てから目を背けて彩花は一人、恐怖と
絶望に因って色素が抜け切った白い髪を
靡かせて真っ直ぐ走った。
そして目の前に林が見え、疎らに生えた
木々を避けながら駆け抜けて行く。
すると、強い日差しが枝葉の間から射し
込んだ。
忽ち目が眩み瞑った瞬間に、フローラが
石に躓き転倒した。

ドシャ!

1「Σうわっ!!」

思ったより派手に転んだらしく、手足に
力を入れると激痛が走った。
強打した頭からは一筋の血が流れ、目の
前が霞む。
此処で気を失えば、いつかは巨人が来て
自分も食われてしまうだろう。
薄れ行く意識の中で死を覚悟した彩花は
静かに目を閉じ、身を委ねた ───
 

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