黄昏の鎮魂歌

□謝罪
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あの女が居候し始め、数日が経った。
食糧難な奴の故郷ではパンとスープ以外
殆ど食べられず、食事の度に目を輝かせ
材料と作り方をメモしている。
最初は綺麗事ばかり並べる奴等と同類の
偽善者かと思ったが、その言葉を聞いた
瞬間に考えが変わった。
奴は俺に言った、『博士がくれた身体を
大事にしろ』と。
俺の復讐に肯定も否定もせず、何度でも
修復が利く機械仕掛けの身体を『大事に
しろ』と言ったのだ。
そんな事を言う奴は初めてだった。
結局その日、何も言い返す事が出来ずに
俺は部屋へ戻った。
頭が冷えた俺は女性、剰え怪我人に手を
挙げたのは流石に良くなかったと反省し
謝りに来た。
相手は女なので、一応ノックをしてから
扉を開いた。
上体だけを起こした状態でベッドに横に
なっている女の隣には、主の傍を片時も
離れようとしない愛馬。
床に伏せた状態で首を上げ、布団の上に
頭を乗せている。
心配そうに様子を伺う愛馬を安心させる
ように鼻筋を優しく撫で、愛おしそうに
見詰める女。
余程、信頼し合っているのだろう。

1「嗚呼、君だったんだ。
扉を開けられなくて悪いね」

ジェ「いや、構わない」

1「それで、僕に何の用かな?」

ジェ「数日前の事なんだが…」

1「数日前?」

ジェ「ああ、あの時は悪かった。
感情的になっていたとはいえ、怪我人に
手荒な真似を」

1「別に気にしてないよ、僕も少し言い
過ぎたからね。
これで、御相子さ」

反応から察するに、本当に全く気にして
いないようだ。
鎮痛剤の効果で眠りに就いた愛馬の頭を
そっと床に置くと、立て掛けた松葉杖の
近くに置かれた装置を弄り始める。
女が使用するには随分と重そうに見える
それは自由自在に空中を飛び回りながら
刃を振るって攻撃する武器で、クセーノ
博士が興味深そうに整備の仕方や細かい
仕組みを教わっていた物だ。
博士の話では戦いに使うとは思えない程
精密で、ぶつけただけでも壊れてしまう
らしい。

1「あ、そろそろ昼食の時間だね。
行こうかフローラ、今日は何かな?」

掛けられた声と共に起きた愛馬は包帯が
巻かれた患部を浮かせながら首を出して
起き上がる主人の手助けをする。
松葉杖に伸ばされた手はあと少しの所で
届かず、俺が手に取り渡してやった。

ジェ「…手伝ってやる」

1「…!! 有り難う。
君、本当は優しいんだね」

ジェ「君じゃない、ジェノスだ」

1「そっか……有り難う、ジェノス」

ジェ「ああ」
 

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