《古高俊太郎》

□籠絡
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――お座敷に向かう前の支度時――



紅を引いて
簪をさして



念入りに鏡台の自分を確認する。





今日お座敷に来てくれるのは、私の大切な人だから…



伽羅の香を部屋で焚き、着物と自分自身に纏わせる。



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姐さんの菖蒲さんや新造仲間の花里ちゃんと道中をして揚屋へ向かう。





今は現代で言えば8月中頃




今宵も京は蒸せ返るほどの暑さだった。




汗をかかないようにしないと――――



美しくも艶やかに歩く菖蒲さんの背中を眺めながら、私は今夜のお座敷のお客様に思いを逸らせていた。





菖蒲さんと花里ちゃんは、先に逢い状が来ていたお客さんの所へ向かった。




私は…




菖蒲さんにかかったもう一件の逢い状のお客様の所へ、名代で一人で向かった。



襖の前に膝をつき、座敷へ声をかける。



《名無しさん》
「菖蒲姐さんの名代で名無しさんが参りました」



すると直ぐに中から「へぇ、お入り」と声が帰ってきた。



襖を開けると、そこには私が大好きな人が居た。



ゆったりとしていて雅やかとしか例えようのない姿で杯を唇へ運んでいる。



今宵は暑いからか、珍しく着崩された着物の合わせ目から肌が多く見えていた。

俊太郎さま特有の自分を抑えたような空気とは反対に、露出する肌は色気を醸している。


……今日は一段と妖艶だなぁ…とどぎまぎしながら、俊太郎さまの近くで腰をおろした。


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