テニスの王子様《短編》

□コンタクト紛失事件
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【コンタクト紛失事件】




「日吉、今ええか?」



お昼休み、F組に男子テニス部で有名な忍足先輩が顔を出した。



「忍足さん、何ですか」



やや面倒臭そうにしながらも、きちんと忍足先輩の所へ行ったのは日吉くん。



同じクラスなんだけど、あまり喋った事もない遠い存在。



サラサラのストレートヘアに優雅な動きが特徴的なんだけど、冷ややかな目つきのせいか、私からは絶対に話しかけられない。





「あかん、えげつない事になっとるねん今」


「えげつないって、あんたの頭の中の話ですか?」


「……ほんま先輩相手でも容赦ない奴やな。

ちゃうちゃう!
俺が昨日告白した隣のクラスの……」



「はぁ……

はいはい分かりましたよ。
どうせヘタレな忍足さんは自滅ってとんでもない事やらかしたんでしょう?

話なら部活の時に聞きますから、取り敢えず教室へ帰って頂けませんかね?」


「……自分、血も涙もない人間の部類とちゃうか」


「フン、血と涙のない人間なんているわけないでしょう」



「ほら、馬鹿な事言ってないでさっさと帰って下さいよ」と、半分涙目の忍足先輩を追い返すようにした日吉くん。



ーーあぁ、忍足先輩、行っちゃった。



半ば強制的に追い返された忍足先輩を、視界に入る限界ギリギリまで眺めていると……



「おい、鈴木」



あろうことか。


滅多に話したことのない日吉くんが、私に近付いて来て、私の名前を呼んでいる。
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