読み物

□ホンモノ
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なあ助けてくれよ オレたちのこと視えてるんだろ 成仏させてくれよ
苦しい 辛い 寂しい 助けて 助けて 助けて たすけて タスケテ

「違う、そんなこと出来ない。ごめんなさいごめんなさい!」

ひっきりなしに聞こえる声。髪を服を引っ張られる感覚。それは全て、この世のものではないモノによって引き起こされている現象だった
本来、幽霊と言うのは視える人間には力があるから助けてくれると考えるもの。その分干渉が強く危険な目に遭うことも多い。
力があるのに助けてくれない。そう思った霊は何をするか分からない。
今彼女たちは、自分が貶した相手と同じ経験をしている。


死ぬほど怖い体験を。



「だからそんなことに力を使うなと言っただろう!」
「あの子を守るためならこれが一番手っ取り早い。私利私欲で使ってないから良いだろう。」
「お前なぁ!!」

所々から聞こえてくる断末魔をBGMに喧嘩する二人。実は、あの水晶玉勝手に持ち出したとのことだ。

「彼女たちが見ているのは私が協力を頼んだ幽霊たちだけだ。それ以外は見えないようにしてあるから危険はない。」
「お前ほぼ零感なのになんでそんな器用なんだよ!?って、そうじゃない!さっさと水晶玉返せ!元に戻しに行く!」
「なんでお前はそんなに甘いんだよ!!」

半助は鳴介のシャツの首元をガッと掴んだ。

「お前だってあの子と同じ目に遭ってきただろ!むしろあの子よりもっと酷かったはずだ!そんなお前がどうしてそんなお人好しでいられるんだ!」
「半…助?」
「お前を傷付けてきたやつを私は一生許さない。お前にしたことと同じことをするやつも許さない。」


「分からないことを悪だとするやつを、私は絶対に許さない。」


トレーナーになるかどうか、そんな時に手を差し伸べてくれたのが鳴介だった。
自身が忍者だと知ってもなお、友だと、仲間だと隣に居てくれた鳴介を、彼は護りたかった。
彼の持つ力を気味悪がり、彼を傷付ける者たちから。
出来ることなら、鳴介が一番苦しんだ幼少のころから傍に居てやりたかった。


半助の逆鱗。それは、親友と同じような力を持つ者を貶すということだ。





「今回、私が土井先生の案を受け入れたのは、貴方の経験が元になっているからです。」
「オレの…?」

壮絶な喧嘩をした後、シナに呼び出された鳴介はお茶を飲みながらその話を聞いた。
あれはあくまでいじめをした生徒に対してのペナルティだと言われれば、勝手に解除するわけにもいかない。さすがに水晶玉は取り返したが。

「霊能力を持った人間が恨み辛みを持ったまま死ぬと、成仏させることが難しい霊となってしまうと聞きました。」
「…覚えていたのか、あいつ。」

一度鳴介が成仏させようとして、上手くいかなかった案件。メリーさんだ。
霊能者の幽霊とは厄介なのだ。その本人の霊力が強ければ強いほど、幽霊の力も強い。
自分の恨みが晴らされることもなく、永遠に生者を死の淵に引きずり込む。

「もしいじめられていた子が絶望し、自殺してしまうと取り返しがつかなくなると言われたんです。鳴介さんですら成仏させられない、と。」
「そうですね…オレは彼女を成仏させられたとは思っていません。きっと、今もどこかを彷徨っている可能性が高い。そんなオレが、もしあの子が幽霊となってしまった時に成仏させてあげられるか疑問です。」
「だから土井先生の案を受け入れました。彼女たちがしていたことはそれほど危険なことなのだと。…それと同時に、鳴介さんがそうなっていたかもしれないとも、聞きましたので。」
「え?…まさか、だからアイツあんなに怒って…」

メリーさんの境遇と鳴介の境遇は酷く似ていた。違うのはたった一つ。
味方がいたかどうか、だ。
一歩間違えば、鳴介もそうなっていたかもしれない。

自分を虐め、苦しめ、痛めつけた者たちを呪いながら彷徨っていた。その可能性だってあったのだ。


(なんでお前はそんなに甘いんだよ!)


あれは、恐怖だ。鳴介を失っていたかもしれないという半助の恐怖。
世界を越えて出会った、唯一無二の親友。半助の持つ逆鱗は、彼の怒りでもあり恐怖でもあった。
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