日々是好日なり

□五月二十八日
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 今日は、私が審神者に就任して一周年の記念宴会だ。
 
 初期刀の加州から話は聞いてたけど、まさかこんな大がかりな宴会だとは思わなかった。短刀ちゃんたちが作ったらしい飾りつけもかわいいし、料理得意組が腕を振るったご馳走も豪華でおいしいし。仲いいメンツ同士で出し物対決してたのはカオスすぎて爆笑した。初期刀と初鍛刀の本丸クイズは懐かしい思い出もあったり思い出したくないものもあったり。粟田口短刀によるヘビーローテーションはただの天使だった。大太刀・槍・薙刀によるもも○ロはごついしむさいし床抜けるかと思ったからやめて欲しい。でかぶつクローバーはお呼びじゃない!!他にも、きつねとたぬきの一発芸とか、未成年の主張ならぬ刀剣の主張とか、もうみんなでひたすら笑った。
 でも全員からお酌されてお祝いの言葉をもらったのは嬉しくてちょっと泣いた。
 ほんと楽しい宴会だ。
  
 「かしゅー、私ちょっと休んでくるー」
 「大丈夫?俺ついてった方がいい?」
 「そこまででもないから大丈夫ー。まだまだこれからなんでしょ?だったら今のうちに復活しとかなきゃ」
 「ほんと主お酒好きだねー」
 
 いやいや、それ自分の飲んだ分見てから言ってね?一般的にも酒飲みなじろちゃんは分かるけど加州さん結構飲んでますよね?「これ甘くておいしー」とか言ってるの合コンの女子みたいだけど、それ甘いのの中でも度数高いやつだから!がぶ飲みしない!
 うちの連中は揃いも揃って酒好きなんだから。一体だれに似たのか。…私か。
 
 みんながにやっといたずらっぽく笑ったことに気付かなかった。





 気分よく離れに戻ると、部屋の入り口にワインレッド色の袋に金色のリボンがかかったものが置いてある。
 震える手でリボンをほどくと、中には「審神者一周年記念」と書かれた小さいノートがはいっていた。

 最初のページは黒の台紙に赤色のマステで加州と私の写真が貼ってあった。この写真は覚えている。この前やった、あの子のカンスト記念宴会のものだ。

“一年間おつかれさま!これからもよろしくね!”

 初期刀に続き、他の子たちも写真にメッセージを添えていた。その一つひとつ、一ページ一ページに、みんなと私の思いが詰まっていた。今までの大変だったこととか、辛かったこととか、嬉しかったこと、楽しかったこと、全部。
 思わずしゃがみ込んでアルバムを抱きしめた。
 
 …ああ、もう。我慢してたのに。泣き上戸でもないのに。


 シャラン、と金属の高い音が聞こえた。

「まさか主も同じことをしていたとはな。驚いた。」
「…そうだね、私もだよ」
 
 振り向かなくてもわかる。聞きなれた近侍の声だ。
 滲んだ涙を拭って立つと、やっぱり鶴丸だった。
 混じりっ気のない白と上品な金の組み合わせの飾り紐は、やはり彼によく似合っていた。早速、しかも本体に付けてくれていることが、ちょっと照れくさいけど嬉しい。

「飾り紐とはなかなか洒落たもんだなあ。君が考え付いた…わけじゃなさそうだが」
「まあね。弟に聞いた」

 私もこの記念に何かみんなに送ろうと思って、迷った。私は賢くないから、みんなが生きてきた時代をよく知らない。何が喜んでもらえるか分からない。
 だから昔から勉強ができる弟に相談した。今は大学で歴史の勉強をしている…らしい。詳しい内容は聞いても分からないから知らないけど。
 飾り紐、と言うそうだ。「まあミサンガみたいなもの」と実際の画像と共に付け足していた弟は私の知識レベルをよく分かっている。お姉ちゃん初めて知ったよ。
 みんなに内緒にしてたいけど、審神者が外を出歩くには護衛をつけなくちゃならない。だからまず、弟に店を探してもらって、そこのサンプルを買って送ってもらい、そのサンプルを見て、それぞれの組み合わせを選んだ。サンプルが見つからないように直感で決めてすぐ弟に送り返したり、うちに送ってもらうのもギリギリにしてもらい、今日の宴会の食料品に紛れ込ませた。もちろん全部弟が考えた作戦だ。
 いいとこのお店だった分さすがに値が張ったけど、記念と思えば高くなかった。そもそも審神者は給料の割に使う間がないから貯金はあった。刀たちと、私と、いろいろ働いて貰った弟へのお礼も買えるくらいには。
 そしてさっき、ここへ来る前それぞれの部屋に配った。いつも早く寝ている短刀たちが最初に見つけるかなと思っていたけど、彼が最初だったようだ。広間を出るときに隅で固まってたから、広間で寝てしまったみたい。

「これ、企画してくれたの鶴丸なんでしょ?ありがとうね」
「おっと、バレるのが早いな。俺は提案しただけで、実際にいろいろ用意していたのは他の者たちだ。意匠…でざいん、というんだったか?あれを考えたのは加州だし、主に気付かれないようにここへ置いたのは前田だ。礼はあいつらに言ってやれ。」
「もちろん2人にもみんなにも感謝してるけど。それでも、ありがとう」

 真っ白いページは寝ている私の横でピースしている鶴丸が写った写真だった。一体いつ撮ったんだこいつは…。でも、最後のページに加州から発案者を密告する小さいメモが挟まっていた。まあ、いつもこんなこと考えるのは私ともう一人しかいないからなんとなく想像はついていたけど。
 鶴丸は「さっき宴会でも散々聞いたがな」とちょっと苦笑いしていたが、すぐにいつものいたずらっぽい笑顔に戻った。

「だが、感謝してるのは俺たちの方だぜ?」

 「そら」と渡された袋をそっと開けると、中にはシルバーのペンダントトップが入っていた。
 縦長の長方形の中に松の木と鶴と太陽が描かれている。花札1月の絵札「松に鶴」だ。私の審神者名「松鶴」の元になった札。
 これ、わざわざ私のために…?
 言葉も出ずに鶴丸とプレゼントを見比べていると、「やっぱりきみの驚いた顔はいいな!」と笑った。

「ここに顕現してから、いろいろあった。手足を得て、五感を得て、そうして生きるこの世の素晴らしいこと!毎日同じようでいて、全く同じことなどない。自分で見つけたこと、きみが教えてくれること、全てが驚きに満ち溢れていた」

 ふっ、と目を細めて、私の頭をそっと撫でた。

「審神者になってくれて、俺を顕現させてくれて、ありがとう。きみに会えて本当に嬉しいんだ」

 昔の私は、いつも楽しくて仕方なかった。ちょっとずつ変わっていく毎日の、その変化を見つけるのが好きだった。
 地元を出て都会に来てからすっかり忘れていたその気持ちを、鶴丸が思い出させてくれた。「驚き」を見つけては報告してくる彼に、別のことを教えてちょっと優越感にひたってみたり、逆に知らないことを教えられて悔しく思ったり。鶴丸と見る世界は、キラキラしていた。
 感謝するのはこっちの方だ。
 
「…うん、うん。こっちこそ、うちに来てくれて、ありがとう」

 手を握って突き出したのは同時だった。お互い目を合わせて、思わず吹きだした。

「これからもよろしく、近侍さん」
「こっちこそよろしく頼むぜ、主殿」

 合わせた拳は鉄のようにひんやりしていて、でもあったかかった。
 
 
 次の一年も頑張ろう。
 大舞台の始まりだ!…なんてね。
 
 
 
 
 騒がしい足音が聞こえる。他のみんなも部屋の前に置かれたプレゼントに気付いたようだ。
 
「宴会続行だな」
「そうなりそうだね。…でもその前に」
「今来てるあいつらにどんな驚きをもたらすか、だな!」

 ニッと笑って、2人で打ち合わせを始めた。この流れも一年間で何度もしたし、これからももっとするんだろう。
 まったく、本当に私たちは似たもの同士だ!






(2018/04/01修正)



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