日々是好日なり

□愛慕が溢れる
1ページ/4ページ



【愛慕】
愛して、そばにいたいと思うこと。特定の人に心惹かれて、心に思い続けること。
【日本語表現インフォ:愛慕【あいぼ】の意味と例文(使い方)(http://hyogen.info/word/1122309)】


愛慕が溢れる



「すごい!かわいい!!」
「襟巻?あ、紋が入ってる」
「みんな色違いだ!」
「また主と鶴丸ですか」

 くりすます、というのは元々外つ国の行事だが、現代では日本でも祭り事のひとつとして楽しまれているらしい。さんたくろーすに込められた思いは、ヒトの優しさそのものだと思う。
 それはそれとして、「クリスマスみんなにサプライズしたいから協力して」というもう何度目かもわからない主の頼み事を、驚きを追い求める俺、鶴丸国永が断るわけがなかった。

 師走の末の朝、朝食にやって来た刀たちが見たのは座席に置かれた包みだった。中には刀紋が描かれたそれぞれ色違いの襟巻が入っている。
 皆驚いてくれたようで何よりだ。それでこそ、ここしばらく連隊戦の合間に主と見本張を見ながらあーだこーだ言った甲斐が有るというもの。それぞれに合う色を選び、刀紋を入れて貰うよう注文し、昨夜気づかれないようこっそり各自の席に置くのは、大変だったが楽しかった。
 広間に溢れた笑顔に「いえーい」と主と手を合わせた。


 賑やかな朝飯を終えて広間を出ると、同じように襟巻を抱えて部屋に戻る倶利伽羅と目が合った。俺がにっこり笑顔になるのと対照に、倶利伽羅は大きく舌打ちをしてきた。つれないなあ。

「伽羅坊はやっぱり朱色が似合うな!」
「どうでもいいな」
「それ、主が選んだんだぜ?」
「慣れ合うつもりはない」

 そんなこと言いつつちょっと丁寧に持ち直すあたり、優しいが素直じゃないよなあ。だから構いたくなるんだが。
 思わず顔がにやけてしまったのか、大倶利伽羅は不愉快だと言わんばかりの目つきで睨む。ははは、まったく分かりやすくてかわいい奴だ!頭をぐしゃぐしゃに撫でてやると心底嫌そうに跳ねのけられた。

「…お前は」
「うん?」
「お前はそれで良いのか」

 アイツが、お前の分だけでなく他の奴に贈り物をしていて、それで良いのか。
 探るような視線を、笑って受け流す。

「主が、普段の戦ってくれている礼として俺達に贈ったものだ。俺にとやかく言う権利はないだろう?」
「…ふん」

 伽羅坊は今度は見せつけるように襟巻を抱え直し、広間へ戻っていった。
 言うようになったなあと思うが、口に出したら「兄貴面するなくそじじい」とまた睨まれそうだ。まあ、俺を案じてくれているんだろう。やっぱり、素直じゃないが優しい奴だ。
 

 俺と主は自他共に認める似たもの同士だ。この本丸に顕現してから、もう何度も主と共に驚きをもたらしてきた。仲間たちも呆れながらも喜んでくれたり、お返しだと言って俺達を驚かせるようなことをしたりすることもあった。
 この本丸に来れて良かった、この主で良かったと、心から思っている。

 その想いは主従から少し形を変えて、溢れんばかりに降り積もっている。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ