DB短編2

□望まぬ最強〜最終章〜
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名無しさんは先程何故か思い浮かんだ人の名を叫んだ。


「無駄だよ?呼んでも誰も……」


その瞬間、アレンに向かって何かが飛んできた。
咄嗟に避けたアレン。
飛んできたそれは……


「なっ!」


アレンの部下の一人だった。
満身創痍で悲痛なうめき声を上げる部下にアレンは舌打ちをした。


「おい!誰かいるか!」


アレンは他の部下を呼ぶが、誰も来る気配がない。


「誰もいないのか!」







「……いらっしゃいませんよ?」






声が聞こえた。
アレンと名無しさんは声のした方を見る。
先程の部下が飛んできた方にはドアがあり、そのドアはポッカリと開いていた。
そしてそのドアの向こうからコツンコツンと靴音が聞こえる。


「誰だ!」


アレンはドアの方をじっと見つめた。
ゆっくりと見えてくる人影。
だんだんと見えてくる人影に名無しさんは声を漏らした。


『ウイス…?』


その人影はドアを入ってハッキリと分かった。


「君は誰だ!何故ここにいる!?」


アレンは叫ぶが、その声には恐怖が混ざっているのが分かった。


「私はウイスと申します…あなたのお仲間でしたら、今頃眠っておられますよ?」


にっこりと微笑むのは名無しさんが思い浮かんだウイスだった。


「何しに来た!」


アレンの質問にウイスはアレンではなく名無しさんを見つめた。


「私の……大切な物を取り戻しに……」


優しく愛しいものを見る目で名無しさんを見つめた後、冷たい目でアレンを見た。


「ですから返していただきます。」

「君、僕を誰だと思っている!」


アレンは怒りを露にした。
それもそうだろう…いきなり来た奴に部下を倒され、もうすぐ手に入る名無しさんを取られそうになっているのだから。


「やれやれ、ビルス様みたいなことを言われますねぇ?ですが…ビルス様の方がまだ可愛げがある。」


クスッと笑ったウイスにアレンは怒り、ウイスに殴りかかった。






ほんの一瞬の出来事だった。






ウイスに殴りかかったアレンはいつの間にか倒れていた。


『……』


一瞬の事に唖然としている名無しさんにウイスは歩み寄った。
そして名無しさんの拘束を解く。
力がまだ戻らない名無しさんをウイスはそのまま抱き締めた。


『…』

「遅くなって申し訳ありません。」

『う…あ…』


名無しさんの中で必死に我慢していた感情が一気に込み上げる。


『うあああああああああん!!!!』


名無しさんはそのまま泣き出した。
ウイスはそんな名無しさんの頭を自分の胸に隠すように抱き締めた。
ウイスは泣き顔を見られたくない名無しさんの気持ちを知ってか知らずかの事に更に涙が溢れてくる。


『こわかったよぉ!もう!しんじゃうっておもったよぉ〜!!』


子供のように泣く名無しさんの頭をウイスは優しく撫でた。


「名無しさん……」


ウイスは優しく名無しさんの額にキスをした。


『ひっく……』

「もう大丈夫ですよ?」

『うん……』


名無しさんはゆっくりと手を動かしてみる。
少し痺れは残っているが、動かせた。
そのままウイスの背中に手を回し抱きつく。


『ウイス…ありがとう…』


スリスリとすり寄ってくる名無しさんにウイスは微笑んだ。


「名無しさん?聞いていただけますか?」

『?』


名無しさんは顔を上げウイスを見る。
ウイスは涙で濡れた顔を優しく手で撫でた。


「あなたが拐われ、私は焦りました。そして…何故ここまで焦るのか…原因が先程分かったのですよ。」

『?原因?』

「ええ…」


ウイスは名無しさんの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「あなたを…愛しているから…」


そしてウイスはそっと名無しさんの唇にキスをした……







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