DB短編
□押してもダメなら引いてみな
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『ウイス様!』
名無しさんは屋敷の廊下を歩いていたウイスを見つけ駆け寄る。
「おや、名無しさん。どうかしましたか?」
にっこり微笑むウイスの元に着いた名無しさんは、はぁはぁと息を落ち着かせた。
そして名無しさんはウイスの手を取ると、『うんしょ』と言いながら引っ張った。
「…何を…しているんです?」
突然の名無しさんの行動にウイスはぽかんと名無しさんを見る。
名無しさんは一生懸命ウイスを引っ張っているが、ウイスはびくともしない。
それでもめげずに引っ張り続いていたら、後ろからビルスに引っ張られた。
あっけなくウイスから離れた名無しさんを抱えてビルスは走り去る。
そんな二人をウイスはぽかんと見ていた。
「君ってバカなの!?」
ビルスは名無しさんを湖の所まで連れてきて、名無しさんを下ろすと呆れた顔で言った。
『だってビルス様が押してもダメなら引いて…』
「物理的じゃないよ!」
『ほぇ?』
『どういうこと?』と言うように名無しさんは首を傾げた。
ビルスは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「はぁ…」
『押してもダメなら引いてみなってどういうことですか?』
「物の例えだよ…」
『はぁ…』
いまいちピンとこないのか、曖昧な返事をする名無しさんにビルスは少し苛立った。
「例えばね?いつもいつも君はウイスにべったりだろう?
だから暫くウイスから距離を置くのさ。」
『でもそんなことしたら嫌われ…』
「そういう作戦なんだよ!
君がウイスに素っ気ない態度をする、ウイスがそれで名無しさんを心配したり、恋しく思えば作戦は成功することになるんだ。」
『思われなかったら?』
「ウイスは君のことを好きでも何でもないってことが分かるよ。そうなったら諦めることだね。」
『なるほど…』
名無しさんはビルスの作戦を聞き、うむうむと考える。
『じゃあ私は暫くウイス様と距離を置きます!素っ気ない態度をすればいいんですね?』
「そうだね…」
疲れ始めたビルスに対し、名無しさんはキラキラした目で『頑張るぞ!』と意気込んでいた。
「大丈夫かな…」
ビルスはぽつりと呟き、ため息をこぼした。