学園アリス
□心の距離
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瑠奈はあの日以来1歩も部屋から出ていなかった。
あの日から既に丸5日は経っている。
食事も喉を通らず食べても嘔吐の繰り返しをしていた。
病院からの診断は鬱病。
学校にも能力別にも姿を現さない瑠奈を心配してのばらや颯、一は毎日のように顔を見に来てくれる。
瑠衣だけを除いて危力系生徒みんながお見舞いに来てくれている。
「瑠奈ちゃん…大丈夫?」
今日ものばらが来ている。
『のばらちゃん…?どうぞ…』
部屋からは弱々しい瑠奈の声が聞こえる。
のばらは恐る恐る扉に手をかけ中に入る。
ベッドに横たわっている痩せこけた瑠奈を見て顔を歪めるのばら。
『のばらちゃん…毎日毎日…ありがとうね…』
腕には栄養剤の点滴。
瑠奈はもうなにも食べられなくなっていた。
「瑠奈ちゃん…早く良くなってね…みんな心配してるから…」
のばらは瑠奈の手を握る。
『ありがとう…』
瑠奈は窓の外を見る。
『のばらちゃん…男の人を好きになったこと、ある…?』
不意の質問にのばらは戸惑う。
『あは…ごめんね、変な質問しちゃって…』
「ううん、瑠奈ちゃんが話したいことあるなら私がなんでも聞くよ…?」
のばらはおずおずと瑠奈の隣に座る。
『私ね…好きな人がいるの…、でもね、その好きな人は同性愛者なの…、私、その人をとある事情で傷付けてしまった…心配してるのに関係ないって…心無い言葉言ってしまったの、あの人はいつもいつも私にちょっかい出してきてね…いつも瑠奈って優しく笑ってくれるの…そんな人を傷付けてしまった、その日からあの人は私のことを"瑠奈ちゃん"って呼ぶようになった…嫌われちゃったのかな…』
瑠奈は静かに涙を流す。
「そっか…瑠奈ちゃんそれでこんなになっちゃったんだね…、でもね、瑠奈ちゃんが想ってるその人も突き放したつもりでも瑠奈ちゃんのこと心配してると思うの…私の勘違いじゃなければ良いけど…瑠奈ちゃん…瑠衣さんが好きなんだよね…?」
のばらは瑠奈の顔を見る。
『そう…あんだけ一緒に居て気付いたのは瑠衣に嫌われてから…、もう何してるんだろう…私ってバカ…』
「瑠奈ちゃん、元気出して…、あのね、言わないでって言われてたから言ってなかったんだけどね…瑠衣さん…瑠奈ちゃんが来なくなった日からずっと中等部寮の前に来て瑠奈ちゃんの部屋を眺めてるの…だから…その、瑠衣さんも後悔してるみたいだよ…?瑠奈ちゃんにきつく当たっちゃったこと…」
『瑠衣…が?』
瑠奈はのばらの顔を見る。
「うん…今日も…さっき会ったの…中等部寮の前で…、そしたらまた瑠奈ちゃんの部屋を眺めてた…、だから瑠衣さんも瑠奈ちゃんに会いたいんだけど…勇気が出ないみたいで…」
のばらは俯く。
『のばらちゃんのせいじゃないから落ち込まないで…?』
瑠奈はのばらの顔に手を添える。
「ごめんなさい…私が連れて来られれば良いんだけど…」
『ううん…瑠衣が…瑠衣が自分から来るまで放っておいていいの…』
瑠奈は力一杯微笑む。
「瑠奈ちゃん…」
『ゴホッゴホッ…うっ…』
瑠奈は手で口を抑えると枕元にある袋の入った桶を持つ。
「瑠奈ちゃん…っ!気分悪いの?大丈夫?!」
のばらは必死に瑠奈の背中をさする。
『ゴホッゴホッゴホッゲホッ…』
瑠奈は手を見る。
そこには赤い鮮血。
「瑠奈ちゃん…それ…ッ」
『だめ…お願い…誰にも言わないで…、瑠衣にだけは…言わないで…、そこの薬…取って…』
瑠奈は手を拭くと水の入ったコップを取る。
のばらは慌てて薬を渡す。
瑠奈は薬を飲むと一息ついた。
『ごめんね…ただでさえ見苦しいのに…』
瑠奈は力無くベッドに倒れこむ。
「瑠奈ちゃん…いつから…」
『もう1年経つのかな…』
瑠奈は微笑む。
「みんなは知らないの…?」
『誰も知らない…知ってるのはペルソナと初校長とナルだけ…、瑠衣には言わないでね…お願い…』
瑠奈は目を瞑る。
「瑠奈ちゃん…」
瑠奈が寝たのを確認してのばらは部屋を出た。
「言わないでって言われたけど…こんなの…」
のばらは俯く。