恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□1話 春T
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【丸井side】
「みーずーきー!おっはよー!」
「やっほー!」
『おー、おはよ。愛美、小百合』
「よぉ、佐藤に藤田」
「今日は荒井達、朝練ないんだねー」
「おぅ、まぁな」
「で、ここぞとばかりにみずっちとお喋りしてんの?ひゅー、仲良いねぇ」
「あのなぁ…隣の席なんだし普通だろ」
「あれー?どこの誰だっけ。去年までみずっちのこと堅そうとか言って毛嫌いしてたヤツー」
「おま…っ、今更それを持ち出すなっての。ったく」
「おーい、あらいー、かみやぁー」
「あ、水野達じゃん」
朝のSHRまでの時間、和気藹々って言葉が似合うそんな光景がそこにある。
クラス男女関係ねぇ、フツーの友達同士の集まり。
それが、羨ましい。
同じ賑やかってのでも、こっちとあっちでは全然違ぇ。
「神谷、ほら前に言ってた雑誌。持ってきたよ」
『マジか。見せろ』
「命令かよ」
『ああ、ごめん。口癖。見せて』
「いや別に良いけど。もう慣れたし。ていうかツッコみに謝んなって」
「なぁにー?その雑誌。わたしも見るー」
「ほら、神谷ってメジャーのイ○ロー好きじゃん。で、今まで以上に踏み込んだインタビュー内容が載ってる雑誌を持ってるつったら、見せろって言っててさ」
「みずっち、野球好きだもんねぇ。あ、でも野球に限らないか」
「なぁなぁ、神谷。お前マジでウチのマネやってくんねぇ?頼むよー」
『やだ』
「うわ、安藤まだ諦めてなかったのかよ」
「それはお前もだろうが中川。サッカー部にはや・ん・ね・ぇ」
『柄じゃない。やってる方が楽しいし』
「なぁ聞けよ。さっき神谷のやつ、アレを異常現象っつってたんだぜ」
「ギャハハハ!」
「お前も言うなぁ!」
『だって異常だろ、どっからどう見ても。ああでも、異常が通常になってるのかここは。難聴になる』
「やべー、腹いてぇー!こんなことなら一年の時からもっと喋ってりゃ良かったぜ。マジ損したわ」
「佐藤と藤田の言った通りだな。神谷おもしろすぎ」
「意外と喋れる奴だったんだな」
『あたしは人形かサイボーグか』
「でっしょー?みずっちの魅力知らないとか人生損してるって!」
「でもアンタらにはや・ん・な・い」
『親馬鹿か』
「「そうだよー!」」
『そうかよ』
「アハハハハ!」
神谷瑞紀。
アイツを中心に人が集まる。笑い声が響く。
本人に中心になるつもりはねぇみたいだけど。
異常現象か…それ、こっちのコレのことだよな。つぅか、もっと言えばテニス部の俺らのことか。
第一印象は、優等生。眼鏡はかけてないけど、まさしくそんな感じ。
勉強しか興味ねぇ、冗談通じねぇ…とか、そんなイメージ。
実際、あそこにいる男子もそうだったみてぇだし。
けど、違うらしい。
予鈴が鳴った。やっと女子が離れてく。
『あ、そうだ。水野、これ』
「え?って、うわっと」
教室の空中を、左から右に何かが横切った。
それは、教室を出ようとしていた野球部の水野ってヤツの手に綺麗に落ちる。
一目で、それがどういうモンなのかわかった。
『雑誌のお礼。それと、確か明日誕生日だろ?一日早いけど』
「お、さんきゅー」
「あー、水野いいなぁー!みずきぃ、わたしもなんか欲〜し〜い〜」
『わかったわかった。じゃぁ今年の愛美の誕生日はタルト二枚でどう』
「ほんと!?やったぁ!」
「みずっちって、ほんとクールビューティーだよねぇ」
『はい?ていうかさ、いつも思うんだけどクールビューティーって言葉おかしくない?広告とかでよく見るけど。ああ、和製英語にツッコんだら負けか…って、荒井、だからなんで笑ってんの』
「いや、もうなんかほんと見てて飽きねぇわお前」
『意味がわからん』
「モテるのぅ、ブンちゃん。持って帰れるんか?」
「余計なお世話だ。モテんのはお前もだろぃ」
「プリッ」
俺は、あの水野や佐藤ってヤツのことが、心底羨ましいと思った。