恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□2話 春U
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【丸井side】








 神谷だ――俺はすぐに気付いた。

 そのままなんとなくジっと見てたら、アイツはふと顔を向けてきて…無言でひらりと手を振った。

 そのまま、校舎に向かって歩いて行く。

 今のは、俺に手を振ったって思っていいのか?






「ブン太、どうかしたか」

「ああ、いや」

「ギャラリーを見ているとは珍しい…と言いたいところだが、見ていたのは別のもののようだな。確率が高いのは、今そこを通って行った神谷瑞紀か」

「別に…」






 確率も何も、ピンポイントじゃねぇかよ。他にも登校してきてるヤツいんのに…これだから柳は侮れねぇんだ。

 コイツのことだ、アイツのデータもバッチリそのノートに書いてあるんだろぃ。

 今は朝練で少し休憩中。そしていつもながら、女子のギャラリーがコートを囲んでる。

 その隙間から見つけた神谷を少し見てただけで、そこにいる女子が更に騒がしくなるんだからマジ勘弁。






「なるほど、ブン太は神谷に興味ありか。良いデータだ」

「いやだから興味とかそういうんじゃねぇし。勝手に話を盛り上げんなよぃ」

「ほぅ?俺はただ、お前が神谷瑞紀という人間を意識の中に入れたという単純な意味で言っただけだが」

「そうかよ…」






 駄目だ、コイツに口で対抗しようってのが馬鹿だった。ったく、何が良いデータだ。

 アイツは東門から通ってくらしい。テニスコートに一番近い門。

 今迄は全く気付かなかったのにアイツに気づく様になったのは、まぁ確かに、柳の言う通り意識に入れるようになったからかもしんねぇけど。





「神谷瑞紀。勉強も運動も上の中以上。さばさばした性格で物言いは冷たい印象を受けるが、男女関係なく人望は厚い。電車通学で部活動には特に入っていない。色々なところからマネージャーの勧誘を受けているが全て蹴っている。家族構成は両親と高校生の兄が一人。お菓子作り友人の関係で日課になっているらしい。絶品と褒めているのは佐藤愛美という親友。彼女とは幼馴染み。基本情報はこんなところだな。ちなみに、一応ウチも彼女にマネージャーを頼んだことがある」

「そうなのか?」

「ああ。去年の部長も誘ったし、今年も何度か幸村と俺が持ちかけたりしている。だが、他の部活と同じように断られた。なんでも、外で習い事をしているらしくてな。基本的に部活動への参加は必須だが、優秀だからと大目に見て貰っているらしい」

「へぇ」

「クラシックバレエと言っていたな。幼い頃から続けているようだ」

「柳はアイツと喋ったりするのか」

「去年に同じクラスだった。まぁ普通に喋るが」

「ああ、なるほど」





 そういえば、あの日も野球部とサッカー部の奴にマネやってくれとか言われてたな。

 あん時は習い事のことは言ってなかったが。

 ま、断り文句なんていくらでもあるか。
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