恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□13話 秋V
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【瑞紀side】
マラソンなう
・・・・・・っていう風に、もしツイッターをやってる子ならケータイで呟くのかもしれない。
あ、無理だな。走ってる最中に出来ないし。
そもそも今って授業中だしな。
体育の授業、この季節定番中の定番を実行中。
校庭じゃなくて、学校の外周をクラスメイトと一緒に走ってる。
先生曰く、外周は約3.5km。女子は2周、男子は3周。
ちなみに、あたしはツイッターはやってない。
そもそもやり方がわからないし、今のところやる必要性も感じてない。
じゃぁ言うなよって言わないでくれると有り難いかな。
『紅葉、綺麗だな…』
前後に他の子と距離を置いて走りながら、空を見上げる。
ここ最近、ぐっと冷え込みが深くなった。
衣替えはとっくにしてるし、マフラー&手袋着用な子の割合は既に8割越え。
衣替えしたのは木々の葉っぱも同じで、冷え込んだ分だけ色が鮮やかだ。
マラソンは、ことさら好きなわけでも嫌いなわけでもない。
ただ、この景色があるから、とりあえずそこまで飽きずに走れるのは助かる。
校庭のトラックをぐるぐる回るよりずっと良い。
風が少し吹いた。
すっかり秋の風って感じだな。むしろ冬の匂いも混じってる気がする。
どうせなら、この秋がもう少し続いてくれると良いんだけど。
『あ』
ひらり、とどこからかモミジが一枚、舞い落ちて来た。
それをなんとなく、走りながら手に取る。
ほんと、見事としか言いようがないほど赤く染まってる。
紅葉のメカニズムは知ってるけど、だとしてもやっぱ神秘だと思う。
色ってすごく不思議だ。
……あれ。
なんか前にも、別のところで同じようなことを考えたような気がする。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・あ、思い出した。
『(あの髪も、この赤みたいに凄く綺麗だよな)』
思い出すのは、クラスメイトで男友達の一人。
人工染料じゃない、けれどハっとするような綺麗な赤い髪の――
『(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、思い出すな…っ!!)』
もちろん、足は動いてるけど、走ってるけど
―――ただいま絶賛、心の中では頭抱えて叫んでマス。
顔赤くなってるのはマラソンのせいだと是非とも勘違いして欲しい。
もうやだ。ほんと勘弁して…。
『やだ……』
『え?』
『やだ…まるいのとなり、いられなくなるの、やだ……』
『じゃま、ってわかってる…けど、ごめん。あたし…もし、そのこがまるいのかのじょ、になっても
…ずっと、となりに、いたい…って、おもっちゃう……だめ、だよな。でも、やだ……となり、いられなくなるの、やだ…』
『――そんなに泣いてっと、身体の水分、なくなんぞ』
『だ、って、やだ……』
『泣きやめって。んな泣かなくても、どこにも行かねぇよ。さっきも言っただろぃ』
『でも、すきなこ…』
『その話やめろ。つぅか寝ろ』
『だって』
『いーから黙れ』
だから思い出すなよ…っ!!
そうやってどんなに叫ぼうが自分に言い聞かせようが
頭を振って記憶を追い払おうとしようが
情け容赦なく、声が甦ってくる。
あの夢の。
『そんなに隣にいて欲しいならずっといてやる。後からヤダっつっても聞かねぇからな』
『ほんと…?』
『ああ』
『じゃまじゃないか…?』
『邪魔なわけあるか』
『めんどうくさく、ない?』
『ねぇよ』
『じゃぁ、となり、いるからな…?』
『そうしとけ』
『ん…』
なんなんだ、欲求不満なのか自分…っ!?
あんな夢みたとか絶対ぜったい誰にも言えない…!
ていうかほんと無理やめろよ自分…!!
なにあの願望と欲望の塊の夢は…っ!?
いくら高熱出てるからってあれはない!ほんとない!!
恥ずかしさと自分の妄想の愚かさで死ねる気がする、マジで。
ていうか、ほんとゴメン丸井…!!
あんな夢見てゴメン!!
好きな子いるのに一瞬でもキスした夢見てマジでゴメン!!!
「よーし、そこの女子はこれで2周したから終わ――…!?お、おい神谷!!お前ももう終わりだぞ!!おい!?」
内心で思考回路が暴走というか恥ずかしさで崩壊しそうになってたから
スタート&ゴール地点にいる先生の声なんか聞こえなくて
もうノルマの2周が終わったことも全然気づいてなくて
しかも自己最高記録のタイムが出てたことなんて知らないまま
男子のノルマの3周を、2周目よりもスピードアップな状態で走ってしまった。
なにバカやってんだ、って自分にツッコむ余裕も何もなかった。
ほんと、もうやだ…。