恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□6話 夏T
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「言ってスッキリしたし、まぁ今は引くけど…でも、伝えたからな、俺の気持ち。諦めるつもりはねぇから。彼氏候補に入れておいてくれよ」
『やだ』
「即答だな、おい」
『候補って意味がわからんし』
「わかったわかった。でも、覚えとけよ。じゃぁな」
荒井が出てくる空気を察して、俺は陰に思わず隠れた。
たぶん、神谷は図書委員の当番で、誰もいないとこを狙ってアイツは告白しに来たんだろうな。
幸い、荒井は反対方向に歩いて行った。
「新学期以降、神谷瑞紀が告白された回数はこれで計4回」
「・・・・・ッ!!?」
すぐ後ろからそんな声が聞こえて、俺は危うく大声を出すところだった。
抑えたことを褒めて欲しいくらいだ。
ったく、ほんとにコイツは・・・・・
「…だから、そうやっていきなり現れんのやめろよぃ」
「俺は結構さっきから、お前の後ろにいたが?」
「………」
「気づかないくらい、あちらに神経を集中させていたようだな」
柳蓮二。
これだから、油断できねぇんだ。
いや、たった今、思いっきり油断しちまったんだけど。
「…で、なんでお前までここにいるんだ」
「お前と似たようなものだ。借りた本が一冊、今日が返却日なのを忘れていた」
「ああ、そういう」
そう言いながら、柳は何事もなかったかのように図書室に入っていく。
まぁ、何事かあったように入るのも変な話だから、当たり前っちゃ当たり前だけど。
んで、俺もなんとなく。一緒に入った。
『…ん?ああ、柳に丸井か』
「悪いな、神谷。今日が返却日だった本だ。遅れてしまった」
『はいはい。もうそっちは部活、終わったのか』
「ああ」
「おぅ」
確かに、図書室にはカウンターに座ってる神谷以外、誰もいなかった。
本でも適当に読んで、時間潰してたんだろうな。
膝の上に、本が一冊ある。
随分と分厚い本だな。
えーっと・・・・・『スポーツ生体力学』?
「ほぅ、なかなか専門的な本を読んでいるな」
やっぱり、柳も気にしたな。
興味深そうに目を細めて神谷を見る。
まぁ、コイツはいつでもどこでも目ぇ細いけど。
『読んでるっていうか、実質的には眺めてるだけ。専門用語は意味不明だし、少しは頑張ったけどもう諦めた』
「だが、興味があるから手に取ったのだろう」
『そりゃまぁ』
「そういえば、お前はクラシックバレエを習っていたな。聞けば、色々な運動部をいつも観察してるそうだが…スポーツもしくは運動全般に関心があるといったところか」
『というより、どういう原理でどうヒトの身体が動くのかって部分かな』
「なるほど。ところで、もうそろそろ当番の時間も終わりじゃないのか?」
『あ、ほんとだ。よし、あがるか』
時計を確認した神谷は、手早く片付けをしてカウンターを出てくる。
そのまま流れで、俺たち三人、一緒に帰ることになった。
もちろん、俺はきっちり忘れモン取ってきたぜ。
最寄りの駅まで、他愛ない会話が続く。
最近は慣れてきたとはいえ、やっぱまだ微妙に不思議な感覚だ。
柳はともかくとして、女子とこうやって普通な会話をしながら、普通な雰囲気で一緒にいるのって。
余計なこと考えないで、会話を楽しめる。
「あのさ、神谷。今度の土曜日って暇か?」
『土曜日?』
柳と別れて、今度は自宅の最寄り駅を降りた道。
ふと思い出して、俺はそんなことをコイツに尋ねた。
『いきなりどうした』
「遼太がよ、『あのおねーちゃんとあそびたい!!』ってこの間からせがんでてな。毎日毎日、今日はこないのか今度はいつ来るのかなんだかんだって騒いでんだ」
『…つまり、遼太君があたしをご所望だと?』
「そーいうこと」
そうなんだよな。
どうも、あの日から遼太のヤツは神谷に懐いてやがる。
いや、懐いてるっつっても、あの日から一度も会ってないんだから変な話だが。
けど、助けてくれて家まで連れてきてくれたのが、たぶん嬉しかったんだろぃ。
むしろ、あの日からまだ一度も会ってないってことが、更に「あそびたい!!」に拍車かけてるっぽい。
『あたしは別に良いけど…逆に聞くけど、そっちは良いのか?』
「俺は部活があるからな。ずっと家にいるわけじゃねぇけど、お袋は大歓迎だと思うぜ。お前が良ければ遊んでやってくれよ」
ていうか、お袋はお袋で「そうねぇ、会いたいわね遼太」ってな感じで同調してる。
俺だって異論はねぇしな。そもそも、抵抗なんて感じねぇし。
そんなこんなで、次の土曜日は神谷がウチに来ることになった。