恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□6話 夏T
5ページ/5ページ



【丸井side】













『「その おいしかったこと!

 あとに のこったのは からっぽの おおきい おなべと

 あの とっても おおきい たまごの からだけでした」

 うわ、なんか今お腹鳴ったんだけど』

「にーちゃん、まだぁ?りょうた、おなかすいたー!」

「へーぃへぃ。もうちょっと待てよぃ」

『あたしもお腹へった…ん?翔太君、どうかした?』

「ゾウさん…けーき、たべるの?」

『このゾウさんは食べるみたいだな』

「…クマさんと、トリさんも?」

『食べてるね』

「しょーたも、たべる」

『おーい、厨房。パンケーキひと皿、注文入ったぞー!』

「はいったぞー!」

「つづき、よむ…」

『あ、そうか。まだ途中だった。えーっと、え、なに。「この からで ぐりと ぐらは なにを つくったと おもいますか ?」?だってさ、なんだろ』

「りょうた、しってるよ!あのね、あのね」

『ちょっと待った!あたしコレ読んだの初めてだからタネ明かししないでくれ』

「おくるま…」

『翔太君言っちゃったし!』















 俺は今、手ぇ離せねぇけど。

 ブハハッ。三人がどんな風に過ごしてんのか、声でよくわかるってもんだぜぃ。

 なるほどな。「ぐりとぐら」か。
















 あー、マジでウケたわ、さっきの神谷の恰好。

 服にも顔にもドロつけて、しかも裸足ときた。

 しかも、全っ然違和感ねぇの、遼太と翔太と遊んでるアイツ。

 さっきお袋にも言ったけど、俺のこれは間違いなく賛辞だ。

 弟二人と、本気で遊んでくれたって証拠だからな。








 で、俺も交じって鬼ごっこした後に家に戻ってきて、今は神谷が二人に絵本読んでやってるっつーわけだ。

 読んでやってるってよか、一緒になって読んでんのか、あれは。

 ほんっと、違和感ねぇな。

 神谷も神谷で楽しそうだし、呼んで良かった。

 ちなみに、お袋は買物だ。









 ん?俺が今なにやってるかって?

 ケーキ焼いてんだよ、ケーキ。

 パンケーキじゃねぇけどよ。





























「うし、あとは50分焼いてっと・・・・・・・・ん?」





















 しばらく時間が過ぎて、型に流し込んだ生地をオーブンに入れた俺は。

 いつの間にか三人の声が消えてることに、ここで初めて気づいた。

 ていうか、ソファ越しに見えてた姿が見えねぇし。

 なんだ?







 エプロンを取って、ソファの向こうを覗き込む。

























 ・・・・・・・・・













 ・・・・・・・・・・・・・・















 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




















「お昼寝ってか」



















 ははっ

 三人仲良く揃って“お昼寝”してやがる。

 まぁ弟二人はいつものこととして、だ。

 神谷のヤツ、遼太と翔太と一緒になって床に転がって、思いっきり爆睡してるぜ。







 あんだけ走り回ってたんだ。疲れたのかもな。

 けど、寝てる顔は笑ってる。

 やっぱりこれも、学校では見ないコイツの姿だ。

















「やっぱ、なんかお前ってホント良いわ」




















 そう小さく呟いたのは、単純に本心だ。

 それと、妙に気分が良い。

 ここ数日、ワケわかんねぇモヤモヤ感があったけど、なくなった。
























 この光景も時間も全部、俺だけのもので、特別な感じがする。






















 それが、なんか嬉しい。

 なんでかは、よくわかんねぇけどさ。














 仄かに甘い香りが漂う中、俺はその光景と時間を独り占めした。







 これは俺だけのモン
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ