恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□7話 夏U
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 あれは、遼太と翔太と遊んで疲れて、神谷がウチで寝ちまった土曜日のことだ。

 前に電車の中でも思ったけど、アイツは寝起きがちぃっと悪いらしい。

 結局、たっぷり夕方まで寝て、ボンヤリ目を覚ました後も夢現って感じで。








 起きたか?とか話しかけても、んー…って曖昧な反応しか返ってこねぇの。

 他人の家とはいえ、少なくとも電車じゃなかったからか、更に寝起きが悪かった。

 むっくり起き上がってからも、まだ半分夢の中みてぇな感じで床に座り込んだまま。








 んで、さ。

 そこでなんか、思いついたわけ。

















「なんで俺だって思ったわけ」

「えー、だってさぁ。瑞紀があれつけてきた最初の日、『なんか上手く結べない』って苦戦してたところで、あんためっちゃ手際よく結び直してあげてたじゃん。
 なんかその時にねー、ピンときたわけよ」

「へぇ、女の勘ってやつか」

「そ、女の勘。で、そう言うってことは正解なんだ?」














“なにやってんだ。貸してみろぃ―――ほら、出来た”

“おー、さすが。さんきゅ”















 その時の俺達の会話っつったら、たったそれだけだ。

 10秒くらい。

 そのたった10秒のやりとりと、なんでもない空気だけで、女の勘ってやつはそこまで働くもんなのか?








 あの日、眠気眼で完全に覚醒してないアイツの髪を、俺はちょいちょいイジってみた。

 まぁ、いわゆる悪戯心ってやつだ。

 だってよ、アイツの寝ぼけて無防備なカッコ、面白くってさ。







 セミロングの髪をハーフアップにして、髪ゴムでまず結んで、

 その上から、輪っかの部分は長めにして、サテン調の細い長めのリボンを結んだだけだけどな。

 よく、弟の女友達に、髪の毛をアレンジしてやるから

 そういうのも、慣れてんだぜ?










 前々から、実は密かに思ってたんだ。

 神谷はいつも髪をそのままストレートに流してるけど、ほんの少しアレンジしたら似合うんじゃないかってな。

 たぶん、遼太を助けて最初にウチに来た時くらいからか。

 ドライヤーかけながら、手櫛で十分まとまるアイツの髪を、初めてじっくり触った時からなんとなく思ってた。

















「どういう経緯であげたのかは、敢えて聞かないけどさぁ」

「あのさ、お前さっきから何が聞きたいんだ」

「いーからいーから!で、なんでサテンのリボンで薄黄色のやつを選んだの?それしかなかったから?」















 このまま、無視してさっさと教室戻ることもできる。

 けど、なんか佐藤の目ぇ見てっと、それってなんか負けを認めるような気がして。

 結局、会話を続けた。















「それがアイツに似合うと思ったからに決まってんだろぃ」















 サテンの、細めで長めの、淡い黄色のリボン。

 他にも色々あった。

 けど、それが一番、神谷に似合うと思った。





 リボンっつっても、種類は沢山ある。

 既にリボン結びに作られてる、髪専用の飾りなんて世の中にゃゴマンとあるしな。

 色にしたって、素材にしたっていろいろだ。





 そんでも、これ、って思ったんだ。





 サテン調の一本のリボンをイチから結ぶから、結んだあとは髪と一緒に流れる感じになる。

 風が吹けば、自然とそよぐイメージ。

 派手すぎないで、それがアイツに似合うと思った。

 リボンの幅は0.5p。ここ、重要な。
















「ふーん?なるほどねぇ」















 相変わらず、なに考えてんだかワケわかんねぇ。

 別に敵対心は感じねぇけど・・・・なんつーのかな、試されてる?って感じだ。

 ケラケラ陽気に笑ってるけど、佐藤の目の奥には、見透かす様な何かがある。















「じゃぁねぇ、今度は別のしつもーん!桜とタンポポ、丸井君にはどっちが瑞紀のイメージ?」

「桜とタンポポ?」















 なんの質問だよ。

 っとに、読めねぇやつ。

 今まであんまし接点はなかったけど、佐藤も佐藤で、変わった女子っつぅか。







 桜と、タンポポ

 どっちも春の花だな。







 俺は考えるのに、少し沈黙した。

 けど、そこまで迷いはしなかった。
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