恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□8話 夏V
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【丸井side】









“我がクラス諸君に告げる。

 8月XX日に学校近くの神社で夏祭りがある由。

 ヒマな者どもは全員集合!つーか来い!



 ちなみに、女子は出来れば浴衣な。

 男子は違うのかってツッコみはナシで”








 どっからどう見ても変すぎる文体だったから、妙に憶えてたそんなメール。

 祭りは好きだ。楽しいのも賑やかなのも。

 だから、送信者の柏原とは普段から気が合ってる。






 んで、今日はその当日。

 ってか、もう俺はその神社にいるんだけど。

 この夏から早くも新部長になった幸村くんの気遣いで、部活は早めに切り上がった。

 晴れて全国大会も二連覇したし、たまには良いだろうって。















「よぉ、丸井。優勝おめでとさん。部活終わったのか?」

「おぅ、まぁな。さんきゅ」

「ぼちぼち、集まって来てんぞ。バッグとかはどうしたよ」

「部室」

「なるへそ」














 集合場所の鳥居近く。

 柏原は俺を見て、少し意外そうな眼差しになった。














「よく来たな。来ないかと思ったぞ、返事もねぇし」

「あー…まぁ、な。昨日の夜に決めたし」













 最初は、別に絶対参加するとは思ってなかった。

 行っても行かなくても、どっちでも良いやって感じで。むしろ、あんまし眼中にはなかった。

 祭りは好きだ。

 けど、こういう企画に参加しても、あんま良い思いはしてこなくてよ。








 ただ、そこでふと思った。

 “アイツ”はどーすんのかなって。













「つーかさ。お前ってノリは良いけど、去年から観察してるとちょっとな。面倒くさがって来ないだろうって予想してた。どういう心境の変化だ?」

「なんでも良いだろぃ」

「ま、確かになんでも良いけどよ。お、やっぱ他のクラスのヤツも来てんな」

「だな」












 柏原は、他人のことをよく見てるんだよな。柳とは別の意味で。

 だから、来ないんじゃいかっていう予想も、ハズレじゃない。

 アタリにしなかった理由は、言わねぇけど。













「あ。あれ瑞紀ちゃんじゃない?」

「え、どこどこ?あ、ほんとだ」

「なんか意外。こういうの、あんまり来ない方だと思ってた」

「そうかな。アタシはそうは思わないけど…瑞紀ちゃぁん、ヤッホー!」

「一人なのかな」

「ほら、学校でいつも一緒の愛美ちゃんと小百合ちゃんは、別のクラスだし」

「ああ、そっかぁ」













 近くにいてお喋りしてた、クラスの女子何人かの声が聞こえて。

 俺の目は、自然とそっちを向いた。

 アイツ――神谷も、こっちを向く。








 目が合った。

 そう思ったのは、別に自意識過剰とかじゃねぇよな?







 その証拠に、少し手を挙げたら

 神谷も、いつものように無言で、ひらりと手を振り返してくる。
















「わぁ、瑞紀ちゃんって浴衣着こなしてるぅ」

『そうか?』

「アタシは浴衣なくってさぁ。この帯、自分で結んだの?」

「慣れてるって感じだねー」

『いや、そうでもない。むしろヨレヨレ』

「どこがよぉ」

「あははは」
















 女子は、浴衣のヤツと私服のヤツが半々って感じだ。

 へぇ…似合ってんじゃん。






 終業式以来とかじゃない。

 休みの間、特に遼太が「おねーちゃん」って騒ぐから、また何度かウチに呼んだし

 全国大会の決勝も、見に来てたしな。






 けど、制服でも私服でもないからか。

 なんか、久しぶりな気がした。














「よし、とりあえず返事してきたヤツらは全員集まったな。んじゃ出発すんぞー!って言っても、まぁいつまでも皆で固まってるわけにはいかないだろうけどな。

 ああそうそう、二人で“抜け出す”のはどうぞご自由に!」













 「二人で“抜け出す”」の発言に、ドっと全員が笑う。

 その柏原の呼びかけで、俺達のクラスは祭りの中へ歩き出した。







 その時、また神谷と目が合って

 けど

 俺はそこから一歩も、アイツに近づくことが出来なかった。














「ブン太くん!一緒に回ろうよ!」

「あっちの屋台とか気になってるの。一緒に行かない?丸井君!」

「そうだ!全国大会おめでとー!」

「あ、あれ仁王くんじゃなぁい?」

「ホントだ!じゃ仁王くんも一緒に!!」












 ・・・・・・これだよ。

 っとに、勘弁してくれ。







「あー…あのさ、俺――」










 だから、あんま乗り気しなかったんだ。

 あっちで柏原が、ご愁傷様って感じで苦笑してやがる。

 そう、あいつも俺のコレを予想してたんだ。だから俺が来ないって思ってた。








 そんでも俺が、今日はって思って来たのは

 アイツが来るからだってのに。













「ひょぇー、やっぱ丸井だよ丸井。他クラスの女子までいるし」

「別にあいつが悪いわけじゃねーけどさぁ、注目されんのはいつもあいつだよな」

「まー良いんじゃね?オレはキャーキャー騒ぐ女子は好きじゃねぇし」

「でもよ、折角の祭りなのに、こっちは華がねぇよ華が」

「良いじゃん。まだ女子は何人かこっちいるし」












 聞こえてるし。

 つぅか、そう思うなら連れてってどうにかしてくれよ。






 女子達に囲まれながら、アイツの姿を確認しようとした時

 今度は別の声が聞こえてきて

 俺は言いかけたことを、最後まで言えなかった。















「神谷さ、一緒に回らないか?」

「わぁ、出たよ荒井が。瑞紀ちゃんはアタシ達とだもん!」

「ていうかさぁ、荒井の目的見え見えなんだけどー」

「うるせぇな。ほっとけ」

「よーし、わたし瑞紀ちゃんのボディガードやってやる!」

「あはは、なにそれぇ!」

「おおーい!」

「あれ?別のクラスの水野とかじゃん」

「よぉ、そっちもか」

「おいおい、さっそく抜け駆けかよ荒井。そうはいかねぇぞ」

「よ、神谷。甲子園面白かったよなぁ、また行こうぜ」

「うわぁ、なんか男子が色々寄ってきたし!」

「もういーじゃん、めんどうくさい!ここにいるみんなで回ろうよ」

「そうだねー。行こ、瑞紀ちゃん!どうせもうクラスとか関係なくなってるし」










「神谷ってさぁ」

「うん?」

「なんつーか、地味にモテるよな」

「地味っつぅか、堅実にな。特にあそこの荒井とか、サッカー部とか野球部の硬派」

「一年の時は、よくわかんなかったけどな。喋ってみると印象が変わるタイプってか」

「そーそー。一人でいるのが好きで、本とか勉強しか興味がなさそうとか思ってたのが嘘みたいだぜ」

「つぅかよ、むしろ最近、なんか可愛く見えるんだよな…」

「お、お前も神谷狙いか?」

「ちっげーよ!ただそう思っただけだって!」

「案外、リボンもイケてたしなー」











 ・・・・・・・また、だ。

 胸がザワつく。

 この間よりも、もっと強い。









 祭りの雑踏に、既に全員が飲み込まれてて







 見えなくなる寸前、神谷がこっちを見た気がしたけど

 それはあんまし、確信が持てなかった。
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