恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□9話 晩夏
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【瑞紀side】








『おー、夏休み最終日が雷つきの土砂降りっていうのも、なかなか稀有だな』

「だな。とりあえず、先にシャワー浴びろぃ」

『いや、ここはチビッ子二人が優先だろ。丸井家三兄弟からお先にどうぞ。ほら、翔太君がくしゃみしてるし』

「あー…わかった。んじゃ、直ぐ出てくるから上にこれでも羽織ってろよ」

「おねーちゃんもいっしょに入ろーよ!!」

『さすがに四人は風呂場がキツイかな』

「ツッコむのはそこじゃねぇだろぃ」

『はいはい。それじゃいってらっしゃい』








 夏休みはあっという間に最後の日を迎えて

 今日も今日とて、あたしは丸井家にお邪魔してる。

 「おねーちゃん、あそぼー!!」っていう元気な声が、丸井のケータイ経由で聞こえてきたのが今朝で

 それからずっと、また遊んでたんだけど。






 午後になって、こんな土砂降りの雨が到来してきたから、揃って家に避難ってわけ。

 ちなみに、紗奈恵さんは車でどこかにお出掛けだ。

 夕方には帰ってくるらしいけど、また道が渋滞しそうだな。








『明日から学校か』







 公園からチビッ子二人を連れて慌てて戻ってきたけど、見事に濡れ鼠。

 風呂場の賑やかな声を聞きながら、このまま上がるわけにもいかないし

 とりあえず、玄関先に座らせて貰って、なんとなしに壁に掛けてあるカレンダーを眺めた。







 特に事前に予定を組んでいたわけじゃないけど

 思い返せば、それなりに予定が埋まった今年の夏休み。







 愛美と小百合と一緒に、二泊三日で少し遠出もして

 荒井を筆頭にサッカー部の何人かから、試合の観戦に誘われもして

 そうそう、日帰りだったけど、野球部の水野達とは甲子園も観に行った。








 でも。







『うん。丸井と一緒だったのが一番多いな』







 というか、丸井家三兄弟と、か。

 正しくは。






 改めて日数を数えるまでもなく、なんとなくわかってたけど

 こうしてカレンダーを見て、その事実をちゃっかり認識して

 なんだか、自然と少し頬が緩んだ。














 けど、同時に

 ふと、思ったりして。















『…理由が、神谷瑞紀だから、だったら嬉しいんだけど、な』








 カレンダーを眺めながら、無意識に小さくそう呟いてた。

 ・・・・・なにバカなこと、考えてるんだか。







 内心で自嘲しながら

 でも、その想いは消えることなく心に留まる。








 ― もし暇なら、またウチ来いよ

 ― 一緒に遊ぼうぜ








 そういう風にして、初めてここに来た日から

 何度も、そうやって誘われて、声かけられてきて

 すごく楽しくて、嬉しくて。





 全部、それは遼太君と翔太君が理由なのはわかってるし

 それが嫌なわけは、全然ない。





 あの日、溺れてる遼太君を見つけたのが自分じゃなかったら、今のこういう関係や時間はなかった。

 だから別に、ここにいるのが自分である絶対的な理由は、どこにもない。

 けど物事全てに、必然的な理由がいつでもあるわけじゃないし

 ただの偶然のなりゆきで、あたしがここにいるのは単なる偶々だけど

 それは別に、不満なわけじゃない。














 ・・・・・だから。

 丸井が、こうやって一緒に時間を過ごしてくれる理由が















 
 神谷瑞紀だから、だったら良いのに

















 ―――…なんて、そう思うのは都合の良い我儘だな。










『ほんと、なに考えてんだろ』

「なにがだ?」

『お、もう終わったのか。烏の行水だな』









 三人もいるんだから、もっとゆっくりで良いのにって言いながら

 チビッ子二人の髪を拭きながら、いつの間にかそこにいた丸井の方を振り向く。

 そうしたら、丸井は一瞬、全部の動作を止めて

 次の瞬間、思いっきり顔を背けた。





 なんだ?






『?どうかした』

「なんでもねぇよ。良いから早く風呂場行け」

『じゃぁ、また借りるな』






 妙に早口だな。





 とりあえず、そう答えて風呂場に直行。

 初めて来た日から、ここに来るときは着替え必須っていう教訓を得たから着替えはあるし

 三兄弟と遊ぶたんびに、必ず風呂場を使わせて貰って来たから、これももう慣れた。






 ずぶ濡れだからやっぱ脱ぎにくいな。

 脱衣所で、そう思いながら服を脱いでる最中に

 鏡に映った自分の格好が見えて

 それで、さっきの丸井の反応の理由に、思い当たる。






『ああ、そういう…』






 丸井、節操なくてゴメン。





 あとで改めて、わざわざぶり返すつもりはないけど

 一応、内心で謝っておいた。





 自分も少し顔を赤くしたことに

 あたしは気付かないフリをした。
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