恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□10話 初秋
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「出来たぞ」
『さんきゅ。ていうか、捜し歩くよりケータイで連絡した方が早いよな。五人とも一緒にいれば良いけど。えーっと、とりあえず愛美に――』
「もしもーし、あ、瑞紀ぃ?」
≪そこに他の四人いるか?なんかはぐれちゃったけど、どうする≫
「まぁ同じ市場商店街にいるのがわかってれば良いっしょ!きっとそのうち会えるよー」
≪いや、これって会えるのか?レベルが異次元な気がするんだけど≫
「まー良いじゃん!問題ナッシングってね!そこに丸井君もいるんでしょ?なんかゴチャゴチャしてて場所教えようもないし、どうしても会えなかったらまた電話でもするよー」
≪なんだそのテキトー具合≫
「そんなものだってば。じゃぁまたあとでねー!――ってことだから、これ以上あっちに近づいたヤツはぶん殴る」
「お前さんも立派なペテン師だのぅ。さっきからここで二人を観察しとるくせに」
「ふふ…神谷は君の本性を知ってるのかい?」
「知ってる知ってる。もうそりゃバッチリ。でも今みたいなこと言っても、真正面から信じる子だね」
「佐藤が騙したりすることを、まるごと含めて信用しているクチか」
「さすがは参謀、よく他人を見ていらっしゃる」
「……」
「あれ、藤田さん?大丈夫かい」
「ショートしてるナリ。この会話についていけてないぜよ」
「ふむ、せっかく来たのだ。俺達もなにか買って食べるか」
『なんか、そのうち会えるって希望的観測なこと言われた』
「ぜってぇ幸村くんとかも一枚噛んでるし…」
『え、なに?また聞こえなかった。ほんと凄いなこの賑わい』
「……」
『ん?どうかした』
「神谷、こっち」
『え、ちょ、今度はなに』
「いーからこっち来い。こんなとこ、あの他の班の女子に見られたらめんどうくせぇんだよ…」
『またなんか呟いてるし。駄目だ、今日は聴覚がお留守だな』
「とりあえず、無難な味のサーターアンダギーを買って来たぞ。ん?佐藤は何故そんなにニヤニヤしているのだ」
「ありがとう、蓮二。うん、あそこの王子様とお姫様の逃避行を、ちょっとね」
「おーてーてーつーなーいーでー♪いやぁ、良いねぇ、青春だねぇ」
「もはや女子中学生のセリフじゃないね」
「こやつ、修学旅行する気ないじゃろ」
「わぁ、このサーターアンダギー美味しい!それにしても、やっぱり沖縄って暑いんだねぇ」
「今はお前さんが一番まともじゃの」
「へ?」
『…ん?なんか三線の音色が……』
「行ってみるか?」
『行く』
「お、なんかのパフォーマンスじゃねぇか。キョーミあんの?」
『うん。それに、沖縄の音楽は独特だって聞いてたし。なんだろ、パフォーマンスっていうか、吟遊詩人みたいな感じの人達かな』
「あー、確かに独特っちゃ独特だな。あんま馴染みねぇけど…神谷?」
『リズムとか旋律の調子はバレエとはだいぶ違うけど…あ、でもこの拍子とかリズム好きかも…そうだな、ここはこうして動けば結構動きは合わせられるし、案外いけるかも…えーっと』
―お、そこの彼女。身体がノってるねぇ。なんなら、ここで踊ってみるかい?
『え…丸井、あの人あたしに話しかけた?』
「そーみてぇだな」
『ていうか、琉球語どうしようかとか思ってたけど、標準語しゃべるんだな…』
―はぁっはっはっは。そりゃぁこっちも商売してるからねぇ。
―ほれ、んな遠慮せんでこっち来な。そこの彼氏も、ほれ。
「か…っ!?」
―本土の連中は、みぃんな恥ずかしがりでいかんよなぁ。
―何でもいいから、音にノって踊る。これが元気の秘訣さぁね。
『それ、あたしも同感です』
「あ、おい神谷」
「え、ちょっと見て見て!みずっちが踊ってるよ!凄いすごーい!!」
「ロック調じゃな」
「本当だ。蓮二、確か彼女って、バレエ?だっけ。やってるとか言ってたよね」
「ああ。なるほど、ただ習ってるだけでなく、どうやらリズムの取り方に天性の感覚が備わっているようだな。バレエの動きを、あっという間に三線のリズムに順応させたようだ」
「楽しそうだね。あ、今度は長い布を持って踊り始めた」
「ククク、ブン太の間抜け顔がなんとも言えんのぅ」
「惚れ直した確率100%」
「すごーい、キレー!どんどんギャラリー集まってきてるじゃん!」
「スカートの制服じゃなくて良かったね」
―お、良いねぇお譲ちゃん!
『ほら丸井もこっち!』
「お、俺かよ?無理だろぃ!?」
『音感良いでしょうが。ダンスも出来るんだろ、ほら一緒に!』
「―――っ、だぁー!わかったよ踊ってやるぜぃ!」
『そうこなくっちゃ!』
―よーし、お前ら!テンポを上げるぞ!
―はははっ、この二人気に入っちゃったよ!こりゃ演奏のし甲斐があるってもんだ!
「ほぅ…なかなか、見れるものだな」
「ブン太は半分、ヤケクソっぽいけどね」
「丸井君ってダンスも得意なんだぁ。やっぱ天才だから?」
「天才というか、天才的の方が正確かな、あれは」
「ブンちゃんは、とりあえずなんでも出来るからのぅ。確か去年は、文化祭で何人かとダンスやってたナリ」
「沖縄の人達ってノリが良いんだねぇ…って、あれ?愛美どーしたの?さっきから静かだね」
―あははは!
―いいぞいいぞ、お二人さん!
―ここはなぁんでもアリだからよ!
『なんだ、渋ってたわりに踊れてるじゃん!』
「ナメんなよぃ!そっちこそ天才的だろぃ!三線と俺に上手く合わせてんじゃん!」
『こういうのはずっと趣味だったからな!』
―こりゃぁ良い!似合いなカップルなわけだ!
「――瑞紀が、笑って踊ってる…」
「え?」
「あは、あははっ…、なんだもう…ほんと、やっぱりそうなんだぁ……やっぱり丸井君なんだぁ…本当にあの子の王子様になってくんないかなぁ…駄目かなぁ…」
「あ、愛美…?」
「あーもー!ほんっとあっつい!早くくっつけば良いのにあの二人ぃ!!てか丸井君がさっさとコクれば良いんだよ、むしろ今すぐコクれっての!よーし、小百合もうあっち行くよー!」
「え、えぇぇええ!?なんでなんでぇ?まだ見たいのにー!」
「…一体どうしたぜよ」
「さぁ…なんだか、嬉しそうだったけど悲しそうな笑顔だったね」
「これは、なにかワケありだな」