恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□10話 初秋
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「あ〜お布団フッカフカぁ〜。明日は海だねー。えーっと、なんだっけ、やろうって言ってたの。すきゅー…あれ?」
『スキューバダイビングだろ』
「それそれ!あーもーすっごい楽しみ〜!」
スキューバダイビングスキューバダイビング!
忘れないように連呼連呼!!熱帯魚とかキレーだろうなぁ〜
みずっちってホント浴衣似合ってるよねー
え?ぜんごのみゃくらく?がなさすぎる?
だってみずっちって可愛いもん〜
「ほぼ自由行動というのが、我ら立海の修学旅行の特徴だな」
「まぁそこに関しては黒天使君と参謀に感謝だわ」
「どうしてだい?」
「赤髪少年と銀髪変態だけだったらずっとお菓子漬けか日陰で昼寝でハイ終了。沖縄に来た意味がないわー、うわー想像したらもっとないわー、それ旅行じゃないわー」
ふむ。佐藤の猫かぶりがここにきてどんどん剥がれているな。
他の班、特に女子とあまり接触せず、この穴場な旅館にいるのは彼女の采配。
よほど、俺達のことでうるさいのが嫌なのだろう。
やはり、この班は面白い。
「ん?なんか俺、今すっげぇバカにされてね?」
『というより想定事実の確認じゃないか?』
「淡々とそれを言ってる神谷が一番辛辣ぜよ」
「ていうかマジでなんで変態がウチらの班にいるのか意味不明なんですけどー。どっから湧いて出てきたわけ?あ、もしかしてウジ虫?うっわ、誰か虫よけスプレー持ってない?」
「え、蚊に刺されちゃったの愛美?はい、あるよ〜スプレー」
「いや、蚊に刺されたのならそこはスプレーではない気がするのだが」
「ハイそこツッコまないー」
「今にも噴射しそうな勢いで俺の顔面に向けるの辞めるナリ」
「は?なに言っちゃってんの?噴射しそうなんじゃなくて噴射するんですけどなにか?」
こやつはホントに俺のことが嫌いじゃの。
嫌いというより、むしろ存在自体認めたくない感じじゃ。
まぁ別に凹みはせんがの。今更じゃき。
「お、おい神谷。止めなくて良いのかよぃ」
『丸井、止めに行ってみるか?』
「…やめとくわ」
『あ、次は幸村の番』
「うん、わかってるよ。あと、俺にスプレーかけないでよね佐藤さん?」
「まさかぁ、そんなことしないよ?」
「トランプやってんの忘れてたぜぃ」
『そんなもんだ。あ、ヤバイ。髪グシャってなった』
「ん?じゃ次は別のアレンジやってやるよ」
『ほんとそういうの好きだな』
ふふ…まったく、見せつけてくれるよね。いきなり目の前でイチャつかないでくれるかな?
尤も、二人にそういう意識はないんだろうけれど?
ブン太はからかい甲斐があって良いよね。さて、今度はどうイジろうか。
きっと、佐藤さんも同じ考えだ。同族って言うだけあって、ね?
「丸井君ってなんでも器用だし天才的だねぇ〜」
「だろぃ?」
「でさでさ〜、なんでみずっちだったのー?」
「・・・・・・は?」
「昼間に聞いたんだけどさぁ、なんか丸井君もみずっち誘ったんだよね?みずっちも丸井君のこと誘ったみたいだけど。なんでなんでー?みずっちも、なんで丸井君だったのー?」
『はい?』
小百合ナイス!!ベリーグッド!!
あんたのそういうところ大好きだよ!!
無神経じゃなく素でそういうことダイレクトに聞けんのはあんたしかいない!!
もうね、あれですよ。赤髪少年の反応が予想通りすぎてマジ最高ってね!口ぱくぱくさせて赤い金魚みたいだぜ!!
うん、黒天使君がすっげぇ楽しそうですね!!
わたしと黒天使の中で小百合の株が急上昇中ってね!!
『なんでって…なにが「なんで」?』
「『丸井のこと誘いたいんだけど良いか?』って言われた時はそうなんだぁって感じだったけど、考えてみたらなんで丸井君だったのかなぁって思ったから!
他にも男子はいるし、むしろ荒井とか水野とかに声かけられてたのにーって」
『ああ、確かに声はかけられ…って、ん?なに、そこの三人はプロレスでも始めたのか。元気だな、さすが』
「うん、ちょっとね。気にしなくて良いから話してて?」
「(ちょ、おい離せよ!!なんで口塞ぐんだ!!)」
「(ブン太、どこに行くつもりかな?まだトランプ途中だよ?)」
「(トイレだよトイレ!!)」
「(今さっき行ったばっかりじゃなか)」
「(仁王てめ…っ)」
なんの羞恥プレイだ!と叫ばんばかりだな、ブン太は。
顔が髪色と同様、真っ赤だ。
なにやら助けを請う視線を向けられている気がしないでもないが
…まぁ、俺も精市と佐藤に殺されたくはないのでな。
『丸井と一緒が良いって思ったから、じゃ説明不足か?』
「そうじゃなくってさぁー!だからなんでそこで、それが丸井君だったのってことだよー」
『なんでそこで丸井だったか?なんで…え、「なんで」?ってなに?なんか質問の意味がよくわかんなくなってきたんだけど
…なんでって、だって丸井が良いって思ったからとしか言いようがないというか』
「(はーなーせーー!!)」
「(ブン太?おとなしくしてないと後でヒドイよ?)」
「(ブンちゃん、諦めるナリ)」
「(まさしくコイバナだな)」
「(瑞紀にその認識はないけどねー)」
『むしろそれ以外になんか理由ってあるものか?』
わーん!愛美たすけてー!
わたしじゃこれ以上むり〜〜!!
「瑞紀さぁ、女子だけじゃなくて荒井とか水野とか、あの連絡来た直後にとっくに結構男子からも声かけられてたっぽいじゃん?なんて言って断ったわけー?」
『「他に一緒になりたいのがいるから、その返事聞くまでなんとも言えない」みたいなことを』
「つまりそれって、そこの赤髪少年のことだよねぇ?ウチらとは一年の時から一緒にって言ってたし?」
『そうだな』
「だから、そこでなんで丸井君なのって話になるわけよ!先に声かけてきた男子どもじゃなくて、なんで丸井君を選んだのかって は な し 」
『「選んだ」?』
おやおや、さっきまで暴れてた赤髪君は妙に大人しくなっちゃって、ふっふっふ。
黒天使とペテン師に全力で抑えつけられながら暴れたら、そりゃ疲れるわな。
それと、この羞恥プレイにヤケになったかな?
あとは、瑞紀の答えを聞きたくないようで聞きたいみたいな心理?
ま、どっちにしても、黒天使と変態が逃がすわけないだろうけどねー?
相変わらず真っ赤なこって。
『んー…?なんか「選んだ」って、あんまりしっくりこないんだけどな。愛美と小百合以外だったら丸井が良いって最初っから思ったわけだし。
だから丸井と両想いだったのは嬉しかったしホっとしたっていうか…え、なにその顔。ちょっと待った。あたしなんか的外れなこと言ってる?』
「神谷、俺からもひとつ尋ねたいことがあるのだが」
『ん?』
「お前は男性恐怖症か?」
『いや?ていうか、そんなものだったらこんな風にしてないだろ』
「それはそうだ。まぁわかっていて尋ねてみたのだが…ただ、少し思うことはあってな」
『?』
「ところで、ブン太にも尋ねてみようか。なぜお前は神谷だったのだ?」
「そーだったそーだった!丸井君もなんでみずちだったのか聞いてなかったー!なんでなんでー?」
藤田からキラキラした目で見られ、なお且つ幸村と佐藤からはニヤニヤした視線を向けられ…と、ブンちゃんは完全にターゲット・ロックオンな状態じゃの。
かくいう俺も、色々と面白がっとるわけじゃが。
肝心の神谷じゃが――さっきからの「なんで」の質問の意味をまだ考えてる感じじゃが、それでもやっぱりブンちゃんを見とる。
とはいえ、若干三名とは違って、ただ本当に見とるだけだと思うがの。
既にいっぱいいっぱいだったブンちゃんが、俺と幸村を吹き飛ばす勢いで突然立ち上がった。
全身真っ赤じゃ。
「俺だって神谷が良かったからに決まってんだろうがっ!!」