恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□11話 秋T
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【丸井side】
「ん?神谷のヤツ、さっきまでここにいたのか?」
「ええ。なにやら、午前中から飲まず食わずで色々なところを手伝って回っているようでしたので。
半ば強制的にカレーを食べて頂きましたよ。また出て行ってしまいましたけどね、少しは休めたでしょう」
「あー、そうしてくれると助かるわ。ったく、アイツはホントなんでもかんでも引き受け過ぎなんだよな」
お陰で今日はまともに顔合わせられてねぇし。
いや、俺は俺で調理室っつぅか家庭科室に籠ってたからヒトのこと言えねぇけどさ。
とりあえず、柳生筆頭にこいつらに感謝だわ。
強制的に休ませなけりゃ、アイツのことだ。時間なんて忘れてずっと手伝いに走りまくってる。
この間の林間学校で好評だったカレーは、もうとっくに完売になったらしい。
俺も調理場を片づけて、今さっき合流したとこ。
クラスの方はまだやってるみたいだけど、まぁ急ぐこともねぇか。
遼太のやつが「おねーちゃんさがすー!!」って言ってたけど、会えたかね。
つぅか、俺が会いたい。
「え、なにその発言。なに、もう彼氏気取り?」
「ば…っ、ちげーし!ただ心配してるだけだっての!」
「そんなに心配なら、今から探しに行ったらよか。むしろケータイに電話でもかけるかの」
「ただ闇雲に探し回って見つけられる確率、46%。あまりお勧めはしない」
「知るかよ、ほっとけ」
なんなんだよ、この三人は!
ったく、修学旅行の時といい、ぜってぇ俺で遊んでやがる…勘弁してくれ。
いやまぁ、この三人に限らず、このメンバー内では既に空気で俺の気持ちは知れ渡ってるんだけどな。
だから柳生だって、わざわざこう言ってきたわけだし。
俺だってな、もういい加減こいつらに対して過剰に反応すんなって、軽く受け流せよって話なのはわかってんだけどよ。
なんつぅか…こう、上手くいかねぇんだよなぁ。
流石にもう、いちいち赤面なんてしねぇけど。
俺ってこんなにポーカーフェイス、下手だったか?半年前を思い出そうとしても出来ねぇし。
「だが、ブン太。真面目な話、彼女を他の男に盗られたくないのなら、もう少しケジメをつけた方が良いと思うぞ。
想いを伝えるのはまだ先にするにしても、彼女に相応の気持ちを持っているのなら、周囲に気をつけた方が良い」
「…なんの話だよ」
「丸井君、実はですね。先ほど、彼女をここへ連れて来たのは休ませる目的もありますが、発端はもっと別の理由でしてね。そうですよね、桑原君」
「ああ。なんつーか、ちっと危なかったぜ。俺と柳生が偶々通りかかったから良かったが」
柳が意味深なことを言ってきて、それに柳生とジャッカルまでもが賛同して話し始めた。
周囲に気をつける?
危なかったって…どういうことだよ。
「ごく簡単に言うとですね。先ほど、彼女はとある男子生徒から告白されていたのですよ。
あれはおそらく、高等部の学生でしょう。まぁ、こういう文化祭でそういうシーンは、定番と言えば定番、ある意味で恒例行事ですし」
「まぁ、別にそれは良いんだ。神谷が告白されんのなんてもう珍しくもないし、こっちが口出しすることじゃないしな。
ただ、今回はその相手がちょっとな。強引っつぅか、少しムリヤリ話を進めるような感じの男でよ」
「神谷さんは、ハッキリきっぱり、お断りを入れておりましたよ。けれど、男でも女でも、好きになった相手には多少の見境がなくなりますからね。
もちろん、いかがわしいことはありませんでしたが、少々彼女が困っているようでしたので、私と桑原君がそれとなく連れ去ってきたというわけです」
「そういうわけだ、ブン太。まぁ、まだお前は神谷の何でもないのだから、特別なにかしろというわけではない。が、こういうこともある以上、ブン太も神谷を想うなら用心した方が良いぞ」
「それでなくても、神谷を意識しとるやつは結構いるからのぅ。ブンちゃん、大変ぜよ」
「まったく…無理やり迫るなどたるんどる!!」
「俺達にとっても、神谷は大事な友人だからね。そういう、強引なヤツには渡したくないし、傷つけるヤツも許さない。それはブン太、君も同じだよ」
―――気付いたら、俺はアイツのケータイに電話をかけながら、雑踏の中を歩いてた。
けど、何度かけても全く繋がんねぇ。何人かに居場所を聞いても駄目だった。
たぶん、手伝いに忙しくて気付いてねぇか、すれ違いになってるんだと思う。
・・・・こういう時に限って、会いたいヤツにはなかなか会えねぇんだよな。
俺一人の勝手な欲だってのはわかってる。
アイツは別に、俺のことはなんとも思っちゃいない。
修学旅行で「丸井が良い」って言ってたのだって、それはただ男友達としてだ。それ以上でも以下でもねぇ。
別に、柳やジャッカル達の話を聞いたから、ってわけじゃねぇよ。
アイツが堅実に人気があんのは今更で、さっきのことだってもう一応は解決してるわけで、柳達はこういうことがあったって忠告してきただけだ。
だから、過剰に心配して探してるわけじゃない。
ただ、会って、いつもみたいに話がしたい。
それだけ。
「丸井?どうしたんだ、誰か探してんのか?」
「ああ、神谷」
もうとっくに夕方だ。
客も昼間よりだいぶ減った。
それでもまだアイツのことが見つからないうちに、別のヤツに会った。
俺がそう返すと、「え?」みたいな顔してくる。
・・・・こいつには、俺も真っすぐ言っておくか。
「あのよ、荒井」
「お、おぅ?」
「俺も神谷に惚れてんだわ。つぅわけで、シクヨロ」
肩を軽く叩いて、ニっと笑ってそう言って見せた。
返事は求めてねぇから、そんまま立ち去って、またアイツを探し始める。
宣戦布告、ってつもりじゃねぇけど
ま、夏祭りのこともあるしな。荒井には、これくらいは言っておくのが筋ってモンだろぃ?
一般客退場の放送が流れる。
つまり、この後は後夜祭に向けて俺達生徒が動き出す。
ある意味で、この後夜祭が目的なヤツが沢山いるっつぅのが毎年の恒例。
窓の外、遠目に、既に準備してあるキャンプファイアーの木の土台が見えた。
「あの…丸井君」
「ん?俺か?」
「うん。あのね、ちょっと話があるんだけど、少し時間良いかな?」