恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□11話 秋T
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 いつの間にか、生徒手帳を取り出して、そこにある一枚の写真を眺めてた。

 ついこの間の修学旅行で撮った、班の集合写真みたいなやつ。

 あの青い綺麗な海をバックに、七人で撮ったお気に入りの一枚。





 他の誰かが見たら「なんじゃこりゃ」とか言って呆れ顔になって笑うかも。

 ていうか、実際に笑われた。そして、あたし達自身も笑った。





 だってさ

 愛美と仁王がなんか知らないけど言い争いしてて
 それに小百合がワタワタしてあたしに抱きついて来てて
 幸村があの黒っぽい笑顔で「二人とも静かにしないと殺すよ?」みたいな感じで
 そんな中で柳の澄ました顔が逆に面白すぎで
 で、騒いでる二人と小百合のせいで倒れそうになったところを、丸井が咄嗟に支えてくれた

 …っていう、なんかカオス状態な一枚だから。






 そうだ、それともうひとつ。

 この時も、直前に丸井が髪、結いなおしてくれたんだけど。

 これ見て初めて気付いた。

 いつの間に、リボンと一緒にハイビスカスの花を髪に挿してたんだ丸井は。

 ほんと、そういうの好きだよな。







 何度見ても笑える、けど、一番お気に入りの楽しい思い出の写真。

 眼下の火の明りにゆらゆら照らされる写真を眺めて、また思わず笑いがこみ上げる。

 きっと、これを見るたびに思い出すんだ。






 一緒の班にならないかって丸井から誘われた時の、言葉にできない嬉しさや高揚感とか
 海の青さとかお腹一杯のソーキソバ食べたこととか
 市場商店街で一緒に踊った時の楽しさとか
 いきなり降ってきたスコールみたいな雨に、皆して大笑いしたこととか・・・・






 この写真みたく、気兼ねなく丸井の隣にいられるのは、いつまでだろう。








































 眼下では、火の周りで楽しそうに騒ぐ子達が何人も見える。

 フォークダンスが本格的に始まったな。

 んー…丸井はなんか、いなさそうだな・・・って思うのは、なんでだろ。

 憶測?想像?希望?欲望?

 …ってなに考えてんだ。







 とりあえず、今の心境を一言。






『また、一緒に踊りたいな』

「誰と?」

『丸井と―――……うわっ!?』







 ――あのさ、普段から結構、冷静沈着とかなんとか言われてるけど

 ・・・・・これはフツーにビビるってば。

 え、なに、そんなに物思いにふけってたか?





 会いたいって思ってた張本人が、すぐ隣にいるし。

 いつの間にここにいたんだ。





『丸井か。なんか最近びっくりさせられること多いな。ここ穴場だしな、そっちもここから高みの見物か?』

「つぅか、お前が見えたから来た」

『見えた?ってどこから』

「下」

『え、校庭?こんな暗いところにいる人間をよくわかったな。ぼんやりしたシルエットしかわからないだろ』

「神谷ならすぐ見つけてやるって言っただろぃ」

『言ってたな』






 ああ、沖縄の市場商店街で二人して迷子になった時に、そんな会話してた。

 まさかここでその時のセリフが出てくるとは思わなかったけど

 ・・・・なんだろ、あの時は特にどうとも思わないで受け流した気がするけど

 今、すごく嬉しい。






 とりあえず、

 とにかく、

 なんか嬉しくて、また笑った。






『あははっ、良かった。やっと丸井に会えたし』






 やっぱり、落ち着く。安心する。

 丸井がすぐ傍にいるのが、すごく嬉しい。

 きっとこのまま会わないで帰ったら、絶対、落ち着いて眠れなかったと思う。

 依存症っていうか、欠乏症か、あたしは。

 そんなバカみたいなこと考えて自分でツッコんたけど、とにかく一緒にいられるのが嬉しいんだからしょがない。








「俺だってお前のこと、探してたんだぜ。何度電話しても出ねぇし」

『あ、ごめん。充電切れたんだ。電池パック変えないとだな』

「そういうことかよ…ったく、心配したんだからな」

『心配?ってなんの』

「こっちの話。つぅか、お前なんでもかんでも仕事引き受けすぎだろぃ」

『そんなことないけど』

「髪、乱れてんの気付かねぇくらいは引き受け過ぎだ」






 そう言いながら、丸井はナチュラルにリボンを解いて髪ゴムを外して、手直しし始める。

 なんかもう、これにも慣れたな…くすぐったいけど、やっぱり嬉しい。

 丸井に彼女が出来たら、きっとこういうこともなくなるんだろうけど

 ・・・・まぁ、それはしょうがない、か。






「あのさ、他のヤツにこうやって簡単に髪触らせんなよな」

『なんの話だ、さっきから』

「お前、しっかりしてるようでいて変に無防備だから心配なんだよ」

『じゃぁ、これからずっと丸井が髪、やってくれるつもりか?』

「そー。だから触らせんな」

『即答か。本気にするけど』

「こっちは最初っから本気だぜ?」

『そうか。じゃぁそうする』








 丸井にとっては、なんてことない、いつも通りの会話で掛け合い。

 こっちも、いつも通りの淡白な掛け合いを装ってるけど

 ・・・・言葉一つひとつに、勝手な希望や欲を込めてることを、丸井は知らない。










 お前が見えたから来た、っていうのも

 神谷ならすぐに見つけてやる、っていうのも

 探してたんだぜ、っていうのも

 他のヤツに触らせんな、っていうのも










 心の中だけで自惚れるくらい、許されるかな。

 駄目か?











 …あのさ

 なんで丸井は、あたしだったんだ?

 どうして、修学旅行の班を一緒にって思ったのが、あたしだった?

 神谷が良かったから、ってどういう意味で?






 今なら、あの時よりもっとはっきりわかる。小百合達の、質問の意味。





 あたしは、丸井と一緒にいると誰よりも安心するから。ホっとするから。

 そのつもりは、ないんだけど

 いつも、どこか強張ってる心が

 丸井といると、ほぐれるから。





















 じゃぁ、























 丸井は?
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