恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)

□11話 秋T
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【丸井side】










『また、一緒に踊りたいな』









 …っていう呟きが、この屋上庭園に上って来て、一番にはっきり聞こえてきたコイツの言葉。

 自然と、誰とだって聞き返してた。

 そんで、また自然と返ってきた答えは、俺の名前。





 神谷は、一枚の写真を見てた。

 薄暗くてわかりづれぇけど、すぐに、修学旅行のやつだってわかったぜ。






 “また”?

 “一緒に”?

 “俺と”?






 自惚れそうになるのをなんとか抑えた。

 勘違いすんな。

 コイツは、そういう意味で言ってんじゃねぇんだから。









『丸井か。なんか最近びっくりさせられること多いな。ここ穴場だしな、そっちもここから高みの見物か?』

「つぅか、お前が見えたから来た」

『見えた?ってどこから』

「下」

『え、校庭?こんな暗いところにいる人間をよくわかったな。ぼんやりしたシルエットしかわからないだろ』

「神谷ならすぐ見つけてやるって言っただろぃ」

『言ってたな』







 すぐにわかった。

 なるべく女子に目ぇつけらんねぇようにしながら、なんとなく見上げた屋上。

 そこでジっとしてあんま動かねぇ一つの影が、神谷だってすぐわかった。

 きっと、俺だけだ。

 これくらいは、自惚れたい。





 見つけてやるよ。

 他のどんな野郎よりも先に、一番にな。







『あははっ、良かった。やっと丸井に会えたし』







 無邪気な笑顔で言ってくれるぜ。

 なぁ、他のヤツにもそういう笑顔でそういうこと言うのか?

 頼むから、その笑顔もそういう言葉も全部、俺だけにしてくれよ

 ・・・・・そんなことを、咄嗟に言いそうになる。







「俺だってお前のこと、探してたんだぜ。何度電話しても出ねぇし」

『あ、ごめん。充電切れたんだ。電池パック変えないとだな』

「そういうことかよ…ったく、心配したんだからな」

『心配?ってなんの』

「こっちの話。つぅか、お前なんでもかんでも仕事引き受けすぎだろぃ」

『そんなことないけど』

「髪、乱れてんの気付かねぇくらいは引き受け過ぎだ」






 いつも通りを装ってこんな会話をしながら

 いつも通り髪を触りながら

 本当は内心で、ぐるぐる葛藤してる。






 今、もうここで気持ちを伝えちまうか…?

 他の誰でもなくって、俺の…俺だけのモンになってくれって。

 その笑顔も声も全部、俺にくれって。





 焦ってる…つもりはねぇ。

 昼間、柳達に話を聞いたからとか

 荒井にあんなこと言っちまったからとか

 んなことじゃねぇ、とは思う。






 けど、やっぱ

 誰にも盗られたくねぇって気持ちが

 どんどん強くなってる気がすんだ。








「あのさ、他のヤツにこうやって簡単に髪触らせんなよな」

『なんの話だ、さっきから』

「お前、しっかりしてるようでいて変に無防備だから心配なんだよ」

『じゃぁ、これからずっと丸井が髪、やってくれるつもりか?』

「そー。だから触らせんな」

『即答か。本気にするけど』

「こっちは最初っから本気だぜ?」

『そうか。じゃぁそうする』







 …結局、言ったのはこんなこと。

 俺も度胸ねぇな。やっぱズルイっつぅか、素直じゃねぇっつぅか。

 荒井や、さっき勇気出してコクってきてくれたヤツを見習えって自分でも思うわ。





 こんなんだから、ほらな?

 他のヤツに髪触らせんなとか、本気だぜとか言っても

 言葉の重みが全然ねぇし。

 いや、俺は俺でこれでも想いを込めてるつもりじゃいる。

 でも、きっと神谷は何も気付いてない。







 悪い癖だな、これは俺の。

 今まで、こっちもこっちで先入観で、女子相手に心を開かないで軽く接してきたのが仇になってんだな、きっと。

 それこそ、自業自得ってやつだ。







 けど、ま

 このままでいる気はねぇし?








「でよ。さっきのマジ?」

『え?』

「俺とまた踊りたいっての。せっかくだし、ここでフォークダンス踊るか?」







 髪を結い直し終わって、振り出しに戻ってそう聞いた。

 またいつも通りな感じで返事が返ってくるって、疑わなかった。特に意識もしなかった。

 なのにコイツは、予想外の反応をした。







『え…あ、うん…なんか、改めて言われると……えーっと、じゃぁお願いして良いか?』







 ・・・・・・・・。







 …おい、待て。

 それは反則だろぃ?







 なんでそこで照れるんだよ。

 はにかんだ笑顔とか、今ここでするか?






 こっちの心臓がもたねぇっつの…







「ほら、ここじゃ出来ないからこっち来いよ」






 内心を誤魔化すために、そんなことを言って場所を少し移動するけど

 勢いでコイツの手、掴んじまったことに更に意識がそっちに行く。

 いや、今からこんなんでどうするよ俺。

 フォークダンスだろ?

 思いっきり手ぇ繋ぐじゃねぇか。






 あー、くそ。

 ヤケッぱちになってきたぜ…。





『丸井、あのさ』

「ん?」

『修学旅行、さ…一緒の班になろうって言ってくれて、ありがとな』

「な、なんだよ今更」

『あと、商店街で、一緒に踊ってくれたのも。丸井がいたから、安心して踊れたし楽しかった』

「おぅ、そうか。なんなら、いつだって一緒に踊ってやるぜ?」

『そんなこと言ったら本気にするけど』

「本気しか言ってねぇっての」

『じゃぁそうするからな…って、そこのステップ違うし』

「は?こうじゃなかったっけか」

『いや、そこは左足こっちで右足こうだろ』

「え、こうじゃね?むしろ右足こうだろ」

『ん…?ちょっと待った。もしかして地域差?出身小学校の差?よし、男性バージョンをとりあえずやって比べてみるか』







 ここで、さっさと真正面からコクるのが男だって言うなら

 きっと今の俺は、いわゆるヘタレ





 けど、俺なりに腹は括った

 だから









 俺がいつか想いを伝えるまで

 願わくば、伝えた後も

 そうやって隣で笑っててほしい








 …っていうのも、やっぱヘタレの勝手な願望なんだろうけどよ。

















 これが、今の俺

 でも、このままでいるつもりはねぇからな

















 愛美(ぶっちゃけて言って良いかな)

 柳(ん?)

 愛美(これってさぁ、どっちかがコクれば全部丸く収まると思う人きょしゅー!とか言うまでもないシーンじゃね?)

 幸村(こっちもぶっちゃけて言うと、それって今更ぶっちゃける話じゃないよね?)

 愛美(わかっとるわ!いちいちツッコまんでよろしいこの黒天使が!!)

 仁王(ああいうのはフツー、どちらかが告白するシーンぜよ。なんでそうならないかのぅ)

 幸村(あの二人だしね。ふふ…まったく、本当にブン太は呆れるほどヘタレだね)

 柳(あの二人が互いに互いの言葉や態度を、相手は何でもなく言ってやっていると思っている確率100%)

 仁王(隠れ両想いじゃの)

 愛美(ああもう!瑞紀のあれってもうクソ真面目に丸井君のこと好きだよ絶対好きだよつーか丸井君さっさとコクれよもういーじゃんくっつけよぉぉぉおおお!!!)

 幸村(うるさいよ佐藤さん?)

 仁王(そういえば、ここにいそうな藤田がいないのぅ)

 柳(あちらは彼氏とラブラブな時間を過ごしている確率100%)

 仁王(とりあえず、なんでここに修学旅行のメンバーが集まってるのか不思議じゃ)

 柳(人の心理と行動はそんなものだろう)

 愛美(くっつけ〜早くくっつけ〜〜とりあえず手始めに事故チューでも起きろ起きろ〜〜!!)

 幸村(え?なにそれ呪い?)








 たとえ今はヘタレでも
 
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