恋の移ろいは季節と一緒に(立海/丸井オチ)
□16話 冬T
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〜♪ 〜♪
こんな時間に誰だ?
「お、ジロー君」
『マジか。ナイスタイミング』
「もしもし、ジロー君?」
≪丸井君ヤッホー!なんか電話してみたくてしちゃったC〜。今ってだいじょーぶ?≫
電話の相手は、まさかのジロー君だった。
そのジロー君は、例のメンバーと一緒に跡部の家に集まってるらしい。声が聞こえる。
ひと言ふた言やり取りしたところで、パジャマの裾が引っ張られて振り向く。
貸して、って目で訴える神谷。
そういえば、ナイスタイミングってどういう意味だったんだ?
『もしもし、芥川君?神谷だけど』
≪へ…?って、え、神谷ちゃん!?ホンモノ!!?≫
『ホンモノホンモノ。でさ、ちょうど今思いついたことがあって――』
≪神谷瑞紀だと、アーン?≫
≪あれ、ジロー先輩って丸井さんに電話かけてませんでしたっけ?≫
≪なんや、嬢ちゃんが一緒なんかいな。わいにも話させてやジロー≫
≪A〜、今はオレだもんねー。それで?なになに神谷ちゃん?≫
『うん、芥川君に見て貰いたい動画があってさ。今そこにPCってあるか?あったら今から言うもの検索かけて欲しい』
≪パソコン?跡部〜、パソコンちょーだーい≫
≪ぁあ?≫
≪ほな、これでええやろ。どうすんねん≫
≪あるよ〜、用意したC〜≫
『そしたら、「△△バレエ団」って検索して、トップに出てくるHPクリック。そこから――』
なんかあるな。
そう思った俺は、書斎にもう一台あるノートパソコンを引っ張ってきて
同じように検索をかけた。
神谷の説明が続いて、そのうち、ひとつの動画に辿り着く。
なんだコレ。
『生で踊ってるのはもう見せられないけどさ。そこに、一昨年あたりの舞台が全部録画されてるから、よかったら見てみて。
ちょうどクリスマス・イヴを題材にした「くるみ割り人形」が演目で、主役のクララをあたしがやってるから』
≪マジマジ!?ヤッタ、見る見る〜!!≫
≪よくわかんねぇけど、なんか見んなら映画みてぇに投影して見ようぜ。跡部、どかに器材あったよな≫
≪当たり前だ。おい樺地、とって来い。お前ら、部屋移動するぞ≫
≪ウス≫
≪ちょうど退屈してきたところですし、良いかもしれませんね≫
≪嬢ちゃん、ええんかいな。なんや、さっきから見てたら、バレエ団に所属しとるモンしか見れんようにパスがついたやん。わいらに見せてええんかい≫
『ああ、別に大丈夫。実際、そこまで大した極秘じゃないからさ。HP作った人が無駄にそういうことしたがる人ってだけで』
見終わったらまた電話するC〜、ってジロー君が言って一旦通話終了。
いつの間にか部屋に来てた親父とお袋も、途中から話を聞いてたみてぇで興味津津。
部屋の照明を少し落としたから、ツリーのイルミネーションが良い具合に引き立ってる。
そんな中で、四人揃って、上演時間約1時間半の動画を鑑賞した。
〜♪ 〜♪
「ほらブン太、電話よ」
「え?あ、ああ…もしも――」
≪スッゲェー!!見た見た?丸井君も見た!?マジマジ凄かったCー!!
くるくる回ってすごい高く飛んでスケートみたいに滑ってるみたいだったし衣装とかももうなんか全部綺麗で、えっとえっと≫
「ジ、ジロー君、気持ちめっちゃわかるけど少し落ち着けよぃ」
≪ほんまやで。観とる間中、珍しく寝てへんと思うとったら終わった途端にコレや≫
とっくに10時半すぎ。つーか、もう11時になる。
思わず耳を離しちまうほど、ジロー君の興奮は凄い。
けど、それくらい感動したってんなら、俺も負けてなかった。逆にしばらく呆けてたからな。
それは、親父とお袋も同じ。
初めて覗いた、未知の世界は
なんかよくわかんねぇけど、とりあえず凄かった。
いや、っていうよか
・・・・・・・・踊ってる神谷のヤツが、ヤバイほど綺麗で、もうそこしか印象に残ってないかもしんねぇ。
大袈裟とか贔屓とかじゃなくて
いやホント、マジで。
その後、電話を神谷に代わって、氷帝の他の奴らも感想とか色々言ってて
なんだかんだと、通話時間は1時間にもなった。
つまり、日付が変わってる。
「神谷、立てるか?」
『んー』
「寝る前になんか飲むか?」
『んー』
「いらねぇか?」
『んー』
「立てるか?つか、立てねぇだろぃ」
『んー』
「んー、しか言えてねぇし…」
『んー』
「いつも何時に寝てんだ」
『んー』
最後の方の俺のセリフは、一応、独り言なんだけどな。
眠すぎて「んー」しか言えてねぇクセに、律義に全部に反応してやがる神谷が
なんかすげぇ可愛くてヤバイって思う俺も相当ヤバイよな。
コイツをウチに半同棲状態にさせるようになってから、俺はコイツとチビ二人と一緒になって寝てる。遼太と翔太を真ん中に川の字で。
言っておくけど、発端はチビ二人の我儘が原因だ。
それに年長の俺達が付き合ってる。それだけ。
眠すぎて立つこともできない神谷を持ち上げる。
さっき、動画の中で王子役の誰かがやってたみたいに、いわゆるお姫様だっこ。
・・・・・今更だから、敢えて意識しねぇようにしてる。
それでなくても、この家の中に神谷瑞紀のモンとか気配とか見つけるたんびに
親父の嫁発言を冗談ってわかってても、意識しそうになって大変なんだからよ。
つぅか
夜も神谷がすぐ傍にいるってことに慣れて来てる
その自分の感覚がなによりも気恥かしいんだっての。
…よし、さっさと寝よう。
「おやすみ、神谷」